学振DC1の採用者を大学別に見てみる【採択されやすい理由は?】

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修士や博士にとって、日本学術振興会の特別研究員DC1は、研究活動および博士課程の過ごし方を左右する重要な存在です。

例年、約4000名がDC1に申請し、そのうち700名程度が採択されています。(採用率は約17%)

ところで、DC1の採用者一覧を見ると東京大学や京都大学に所属している人が多いように見えます。

  • 学振DC1の採用者を大学別に見るとどうなる?
  • 東京大学や京都大学は採用率が高い?
  • 採択されやすい大学なんてあるの?

以上のような内容を、公開情報をもとに調査してみました。

大学院生の間では「DC1に採択されるのはエリート」という認識もある狭き門ですが、その実態を紹介していきます。

※なお、今回のデータ分析はひとつの切り口でしかありません。

毎年、多くの大学からDC1に採択されていることも事実なので、全体の傾向を把握するための「ちょっとした読み物」として、参考にしていただければ幸いです。

学振DC1の概要を簡単に紹介

日本学術振興会特別研究員(DC1)、通称「学振DC1」とは、日本学術振興会が提供する若手研究者への支援制度の一つで、大学院博士課程(後期課程)の学生を対象としています。

DC1は、修士2年次に申請し、採択されると博士1年次から3年間の支援を受けられます。ちなみに、DC2は、博士1年次または2年次に申請し、その翌年度から2年間の支援となります。

具体的には、毎月20万円の研究奨励金と、年150万円の研究費を受け取ることができ、金銭的にも精神的にも、また、研究実績としても大きなアドバンテージになります。

毎年、約4000人の申請者がいますが、採用率は約15~20%となっており、「DC1に受かるのはすごい!エリートだ」という印象を持たれるようです。

(参考記事:学振DC1/DC2とったんだけど、どれくらいすごいこと?

【調査】学振の採用者一覧から受入研究機関を抜き出す

日本学術振興会のホームページでは、学振の採用者一覧情報を公開しています。

  • 採用者の氏名
  • 研究分野の小区分
  • 研究課題名
  • 受入研究機関(大学名)
  • 部局(研究室)
  • 受入研究者の氏名と役職

以上の情報が公開されています。

今回は、この中から「令和4年度~6年度(直近3年間)」の受入研究機関を抜き出して整理してみました。

学振DC1の採用者を大学別に見てみる

直近三年間でDC1に採用された人が多い順に、大学名を見ていきましょう。(単純に3年間の採用者数を平均しています。)

まずは、円グラフで見てみましょう。(見やすさの観点から、上位11校のみを表示しています)

東京大学と京都大学は、特に採用者が多いのが分かります。

そして東北大学・大阪大学を加えた上位4校で過半数、いわゆる旧帝大で3分の2を超えていることがうかがえます。

私立大学だと慶應義塾大学・早稲田大学などが毎年一定数採用されているようでした。

(もちろん、「その他の大学」の人数も多く、所属大学に関わらず採用されていることも見て取れます。)

【大学別採用者数】数字データでも確認

円グラフのもととなったデータも見てみましょう。

以下、各大学の令和4年・令和5年・令和6年のDC1採用者数を示しておきます。

  • ①東京大学:192人,177人,174人
  • ②京都大学:101人,99人,103人
  • ③東北大学:45人,58人,46人
  • ④大阪大学:49人,37人,46人
  • ⑤北海道大学:47人,30人,32人
  • ⑥九州大学:36人,33人,17人
  • ⑦名古屋大学:26人,24人,28人
  • ⑧東京工業大学:24人,20人,29人
  • ⑨筑波大学:21人,21人,17人
  • ⑩慶應義塾大学:19人,14人,15人
  • ⑪早稲田大学:12人,11人,13人

ここでは上位11大学のデータだけを提示しましたが、毎年コンスタントにDC1に採用されていることが分かります。

別の角度からもデータを見てみると…

大学別のDC1採用者数を、別の角度からも考察してみました。

(参考①)博士課程入学者数に対するDC1採用者数

学振DC1採用者の絶対数に加えて、博士後期課程への入学者数も見てみました。

つまり、学振DC1に応募できたであろう生徒の母数(博士後期課程入学者数)と、DC1採用者数(直近3年間の平均)を合わせて確認することで、大学別の合格率のようなものが見えてくるかもしれない…という試みです。

こちらが、上位11校の「DC1採用者数|博士課程入学者数(割合)」のデータです。

もちろん、入学者全員が申請してはいないので、そのまま採用率を比較できるワケではありません。

ただ、上記数字を見ると、東大・京大に次いで東工大・東北大・北大の「学生数に対するDC1採用率」が高いことが分かります。

採用数だけを見ると東大・京大が圧倒的に多く見えますが、博士学生の母数も多いことが、ひとつの要因となっているようです。

(参考②)上位校は申請者数がそもそも多い?

京都大学では、学振申請者の人数を公開しています。

特別研究員採用状況一覧(京大)」を見ると、令和5年度のDC1申請者数は「450人」となっていました。前掲の通り、博士後期課程入学者数は「872人」で、DC1採用者数は「101人」なので、入学者のうち半数以上がDC1に挑戦し、採択率は22.4%です。

(もちろん、最初から博士進学を考えていない修士学生もいれば、学外からの博士入学もあるため、実態を正確に知ることはできません。)

また、京都大学以外は学振申請者数までデータになっていないことが多く、厳密な比較はできないものの、採用者数の多い大学では「博士進学するなら、DC1に申請するのが当たり前」といった文化があるものと思われます。

学振DC1の採用者の多いことが意味する3つのこと

ここまで大学別の学振DC1採用者について見てきましたが、採用者が多いことは、以下のような点を意味していると言えそうです。

①学振申請への文化と学生の意識

先ほど、京都大学の例をあげましたが、博士課程入学者数が872人なのに対して、DC1申請者数が450人もいました。これは、「博士課程進学者はDC1に申請するのが当然」といった文化があるものと思われます。

挑戦するのが当たり前といった文化・雰囲気があることで、学生は学振に対しての意識が高くなり、積極的に、そして万全の準備を整えて学振に挑戦することができるでしょう。

②ノウハウの蓄積と指導体制

学振の指導経験が豊富で志向性の高い教員(先輩)が多い大学では、修士学生がDC1に申請する際のノウハウが蓄積されています。

学生がひとりだけで申請書を作り上げるのは難しいため、周りの手厚いサポートを受けられるのは大きなアドバンテージとなりそうです。

また、研究計画書作成や書類審査の準備等において、様々な支援を行っている大学もあります。研究計画書作成のワークショップや個別指導、書類審査の添削などを提供している大学だと、採用数は多くなるかもしれません。

③研究環境

学振の審査に限った話ではありませんが、やはり最新機器や充実した実験室が揃っていることは、質の高い研究を行うために重要です。

また、研究資金の獲得が多い大学、および研究室であれば、研究活動に集中できるかもしれません。(もちろん、どの研究室も研究資金が十分ではないことに変わりはないのですが。)

DC1採用者が多いということは、間接的に「研究環境が整っていることを示している」と言えるかもしれません。

【まとめ】学振DC1の採用者数を大学別に分析した結果

今回の記事では、学振DC1の採用者数を大学別に整理し、多角的に考察してきました。

東京大学・京都大学の採用者数が多いですが、単純に、博士課程入学者数の母数も多いことが分かりました。

繰り返しになりますが、今回のデータ分析はひとつの切り口でしかありません

所属大学に関わらず、研究の質や将来性を評価されて採択されているケースは数多く見られます

全体の傾向を掴むための「読み物」として、少しでも参考になっていれば幸いです。

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