大学院生が所属する「研究室」は、社会人が所属する「企業」のように重要です。
博士課程において、自分のやりたいことを求めて「研究室を変えるべきか」という悩みを持つ人は少なくありません。
- 博士課程の研究室を変えられる?
- 専攻分野を変えたい理由は?
- 研究分野を変えるメリット・デメリットとは?
このような情報を、記事にまとめました。
研究室を変更することで、幅広い視野を持って、独自性の高い研究を進められる可能性がある一方、当然ながら環境変化に伴うリスクもあります。
いずれにしても、博士学生が自らの研究成果を追求できる環境(研究室)を主体的に選択することは重要です。
研究室を変えることで、どのような影響があるのか、本記事を参考に考えてみましょう。
研究室を変えるパターン3つ
大学・大学院にて研究室を変えるパターンは、大きく分けて3つ考えられます。
- 学部から修士課程で変更
- 修士課程から博士課程で変更
- 博士課程の途中で変更
それぞれ、見ていきましょう。
学部→修士で研究室変更
学部で配属された研究室から、修士進学のときに研究室を変えることは少なくありません。研究活動の基礎を学ぶ中で、自分がやりたいことが明確になってくることもあるでしょう。
また、修士課程への進学においては、卒業した大学とは別の大学院を選びなおす人もいます。大学院を変更するにしても、研究室を変更するにしても、いずれにしても、院試の合格は求められます。
行きたい研究室を決め、試験や面接の対策をする必要がありますし、また当然ながら、新たな専攻分野の知識は、急いで学びなおさなければなりません。
修士→博士で研究室変更
修士課程から博士課程へ進学する際に変更するパターンもあります。
修士課程での自分の研究成果を踏まえて、新たな領域へ興味関心が湧いてくることはあると思います。博士課程進学後に大変になりそう…という不安を乗り越えるほどの気持ちと、明確な研究ビジョンがあるかどうかがポイントになりそうです。
博士課程の途中で研究室変更
博士課程の途中で研究室を変更するケースは、ほとんどありません。
「アカハラ」「ブラック研究室」と呼ばれる事例もありますが、特別な事情によってやむを得ない場合、しかも博士学生が他の研究テーマでの継続を望む場合のみ、変更が認められる可能性があります。
学費を支払っている以上、制度上、所属研究室は学生自身が決めることですが、途中変更することで博士課程の修了が遅れることは覚悟しなければなりません。
ちなみに、博士課程の途中で「研究テーマ」を切り替えなければならないケースもあります。この場合も、研究の遅れを取り戻すには相当の努力が求められます。
研究分野を変えるメリットは?
研究室・研究分野を変えることには、以下のようなメリットがあります。
幅広い視野で独自の研究ができる
修士と博士で違う分野を学ぶことで、独自性の高い研究ができるのは大きなメリットです。
従来の専門性を活かして、新たな分野にチャレンジしていく…。ずっと同じ専門分野を深めてきた人とは異なる着眼点を持てるため、その分野での常識や前提を覆すことができるかもしれません。
現在の学問体系は細分化しており、深く掘り下げることはできても、幅広い分野に対する横断的な視野に欠ける傾向があるとも言われます。研究室の変更によって、独創的な研究が可能になります。
異なる環境で研究成果を追求できる
研究室によって、使える研究設備や、運営方針などは大きく異なります。
研究遂行のために、どうしても今の実験装置ではクリアできないケースや、担当教員の性格や指導方針によって、博士学生の自発的な研究が上手く進まないこともあるでしょう。
研究環境を変えることで、自分なりの研究成果を思い切って追求できる可能性があるのはメリットと言えるでしょう。
人脈が広がる
博士課程で研究室を変えることで、結果的に、新たな人脈を得ることもできます。
専攻分野によっては、学会で出会う人が限られていたり、ずっとラボ内に閉じこもっていたり、なかなかネットワークが広がらないこともあります。
その点、研究室を変えることで、多様な人と知り合うことができるのはメリットのひとつです。
研究分野を変えるデメリットは?
一方、研究室を変えると、デメリットも大きいです。以下、2つのリスクを紹介します。
研究成果が出るまでに時間がかかる
博士課程で研究室を変えると、研究成果を出すまでに時間がかかってしまいます。
移動後は新しい分野の論文を読み、知識や背景をインプットしなおし、実験データをゼロから積み重ねていく「労力」「時間」が必要となります。
明確な目的意識やスピード感を持って研究を進めないと、博士号を3年間で取得できない…そんな不安感がつきまとうのは大きなデメリットでしょう。
環境変化への適応が必要
研究室を変更することで、人間関係も新しくなります。その研究室独特のカルチャーや、人間関係、指導のクセなどに適応しなおすことにも、時間や労力がかかるかもしれません。
事前に教授の指導方針や性格、ラボ自体の評判や雰囲気などを確かめておいた方がいいです。それでも実際に所属してみないと分からない部分もあるため、環境変化のリスクは避けられません。
せっかく迎え入れてくれるのですから、移動先の研究室で迷惑をかけず、むしろ活躍できるよう、必死に追いつく覚悟が必要です。
いずれにしても、どのような研究がしたいのかあらかじめテーマを明確にしておくと、担当教員も相談に乗りやすいです。
※本当に研究室の変更しか手段がないのか…?
現在、多くの大学院では「他分野との横断的な研究にも積極的」という傾向があります。
他のラボの研究設備を使わせてもらったり、場合によっては共同研究を進めたり…担当教員に相談することで、「新たな分野の研究を、今の研究室で」進めていける可能性はあります。
自分の研究成果を追求するにあたって、本当に「研究室の変更」しか手段がないのか、じっくり検討・相談をしてみましょう。
専攻を変えたい理由を自己分析できているか?
ここまで述べてきた通り、博士課程で専攻を変えることはリスクも大きいです。
リスクを踏まえても変更したいのか、冷静にその理由・気持ちを自己分析してみるといいでしょう。
なるべくなら、ネガティブな理由ではなく、「今までの研究で見えてきた〇〇を、△△の研究で追求したい」といったポジティブな動機を深掘りしましょう。
「こんな研究がしたい」という理想・目的があれば、環境変化を活かすこともできるでしょう。
ちなみに、学部から修士で異なる研究テーマに変更し、その後も新たな分野に挑戦し、成果をあげてきた研究者は少なくありません。以下の記事において、稲葉謙次さんは『向上心と柔軟さを持ち続け、勇気をもって新しい研究テーマに取り組んでもらいたい』と語っています。(参考:生物物理「キャリアデザイン談話室(4)」)
【まとめ】博士課程で研究室変更…自分の研究テーマを追求しよう!
今回の記事では、博士課程で研究室を変更することのメリット・デメリットを見てきました。
一般的には、「過去の専門性を活かしつつ、新しく興味関心を持っている研究テーマを追求したい」という明確な方向性があるなら、研究室変更も選択肢のひとつになります。
異なる専門性やスキルを習得しつつ、自分の興味関心のあるテーマを主体的に追求できるため、結果的に、独自性の高い研究成果をあげられる可能性があります。
ただし、博士号取得までを「急ぎ足」で過ごさなければならないのと、新たな環境適応にストレスがかかるというデメリットは覚悟しましょう。
この記事が、自分の進路について悩む人の参考になっていれば幸いです。
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