- 博士課程では研究に追われて恋愛ができない…?
- 博士や研究者は、彼氏(彼女)ができても振られる…?
このようなイメージを抱く人は少なくありません。
確かに、博士課程の研究生活は社会人よりも忙しいというデータもあり、研究をしているだけで時間的・精神的・体力的に、大きな負荷がかかります。
しかし、博士課程に進学したからといって恋愛や結婚を諦める必要は全くありません。博士課程という特殊な環境を理解してもらうことで、幸せなパートナーシップを築いている博士もいます。
この記事では、博士課程では本当に恋愛ができないのか、そして研究者は結婚しにくいのかといった事実関係を整理し、彼氏・彼女とのパートナーシップと充実した研究活動を両立させることについて解説します。
【博士課程と恋愛・結婚の現実】研究者は本当に結婚できない?
博士課程の学生や若手研究者の間では、「将来、結婚できないのでは」という不安があるようです。まずはデータを見てみましょう。
2020年に日本学術会議が公表した『人文社会科学領域における男女共同参画推進のための諸検討に関する記録』の付録5にて、人文社会系の男女研究者2960名の婚姻・家庭構成について記載があります。
データによると、30代後半の研究者の婚姻率は男女ともに約7割です。内閣府の調査結果によると、日本人の平均的な婚姻率が30代で約6割、40代で約7割なので、まったく差がないことが分かります。
博士課程だと結婚できない(研究者は結婚できない)という説は、単なるイメージに過ぎないのです。
ちなみに、女性研究者の配偶者職業は「35.6%」が研究職となっており、共働き研究者カップルが多いことも分かります。(※男性研究者の配偶者職業は3分の1以上が専業主婦ですが、研究職も14.3%となっています。)
上記の通り、博士、研究者が結婚できないというのはイメージだけで、実態は通常の社会人と変わりません。
博士課程では恋愛(結婚)ができないと言われる3つの理由
上記の通り、実際には博士や研究者は結婚できないわけではありません。
それでも、博士学生やポスドクといった30歳未満の研究者は恋愛や結婚が難しいというイメージが根強いと思います。その理由は、主に以下3つでしょう。
- 時間的制約
- 経済的な不安定さ
- 将来のキャリアの不確実性
それぞれ、簡単に解説します。
①時間的制約
ある意味、研究活動にはゴールがありません。特に博士学生の立場だと、平日も休日もなく、研究に没頭しなければならない時期がどうしても出てきます。
文献確認、実験、論文執筆、学会発表の準備などなど…研究に関する活動で休日もあっという間に過ぎ去っていくのが通常です。
こうした多忙な生活スタイルでは、出会いの機会そのものが限られてしまいますし、落ち着いてコミュニケーションを深めたり、デートを楽しんだりする余裕が生まれにくいのが現実です。
②経済的な不安定さ
博士課程の学生の多くは、少なくとも27歳頃までは安定した給与収入を得られず、経済的に不安定です。学振を中心とした博士への経済支援は充実してきていますが、それはパートナーのために使える余裕資金ではありません。
その点、社会人との恋愛をベースに考えている相手だと、理解を得るのに苦労するかもしれません。もちろん、博士課程の間に結婚をする人もいますが、安定収入を得られるようになるまでに時間がかかるのは博士ならではの懸念点になり得ます。
③将来のキャリアの不確実性
博士号取得後もすぐに安定した職に就けるとは限りません。アカデミアで研究を続ける場合、多くの若手研究者は「ポスドク」と呼ばれる任期付きの職に就き、1〜5年の有期雇用を繰り返すケースがあります。
次の雇用が国内なのか海外なのか、そして年収はどのくらいになるのか、直前まで生活状況が見えない中で結婚を考えるのは難しいという人もいます。
一方、企業研究職への内定が決まれば、博士課程の内からある程度のキャリアステップが見えてくるので、一定の安心感があります。
同じ研究室で出会った博士学生が恋愛から結婚に至るまでのストーリー
しかし、こうした困難を乗り越えて素敵な結婚生活を送っている研究者カップルも存在します。
例えば、日本ロボット学会の会誌では『ある研究者夫婦とその娘の生活』という事例が発表されています。おおむね、以下のような内容です。
博士後期課程在学中に、同じ大学の隣の研究室で出会った。夫が学位取得後に同大学で助手を務め、妻は都内大学で助教として働き始めた後、夫が地方大学へ助教として赴任する。二人の交際が始まったのは、夫の赴任直前で、一年後に別居したまま結婚し、4年半の別居期間を経てから同居を開始し、その2年後に娘を出産。
研究者同士が結婚し、同居し、テニュアの職を得ることは大変だが、研究者の配偶者を積極的に雇用する制度を持つ大学もあり、また、大学の男女共同参画室では産休・育休の取り方、保育園の選び方などの手厚いサポートを受けられる。実際、育休中も科研費申請書の作成や学生との打ち合わせができ、出産後2か月で職場に復帰。夫婦二人で参加したい学会には、子連れで参加している。託児サービスを含め、各種サポートは手厚くなっている印象。
アカデミアは会議日程などを自分で調整できるため、忙しい割には時間の融通が利き、恵まれている方だと思う。また、お互いが研究者であるため、相手の抱える問題や困っていることを理解しやすい利点があり、様々なトピックについて日々の食卓で議論できるのはメリット。もし本稿を読んでいる研究者諸氏が研究者との結婚・出産・育児を考えているなら、「ためらうべきではない」と伝えたい。
また、「博士情報エンジンwakate」のセミナーでは、女性研究者が以下のような体験談を紹介してくれました。
- 同じ研究室でほぼ毎日顔を合わせるため、人間性が見えやすい
- 実験への真摯な姿勢・時間への意識・他人への配慮などの素顔が見える
- 論文締め切り前や学会前はピリピリすることもあった
- アカデミックポストになって結婚した
- 時間調整がしやすく家事や育児も二人三脚でできる
- 研究者同士だからこそうまくいくこともある
多忙な研究者でも、ワークライフバランスを工夫しながら幸せな家庭を築いています。参考にしてみてください。
博士同士、研究者同士が恋愛・結婚をするメリット
研究者同士が恋愛や結婚をするメリットとしては、まずお互いが研究者としての働き方に対して深い理解を持っている点が挙げられます。
研究者は裁量労働で土日も仕事をするなど、一般とは異なる働き方をすることがありますが、同業者であればその特殊な事情に対して寛容になれることでしょう。
また、研究内容についても気軽に相談することができ、場合によっては新たな視点や最新の知見について情報交換ができます。
お互いに研究者として切磋琢磨していくことで、深い信頼関係を築くことができます。
博士課程で恋愛することと研究活動への影響
博士課程における恋愛は、研究活動に対して影響を与える点に留意しておきましょう。
まず、恋愛相手の存在は、博士課程のような精神的に負担が大きい時期において、精神的な支えとなり得ます。やはり、四六時中研究に没頭していると気が滅入ることもあるため、信頼のおけるパートナーに率直な気持ちを話すことができれば、一種の息抜きやリフレッシュの機会となります。
さらに、自分と違う経験をしているパートナーがいる場合、研究室と自宅の往復になりがちな研究者生活に社会との接点をもたらしてくれます。社会の生の声を聞き、視野が広がったり、研究に新しい気づきが生まれたりすることもあるでしょう。
その一方、恋愛関係に集中しすぎて、研究の進捗に支障が出てくると問題です。目的があって博士課程に進学したはずなので、本来の自己実現、自己成長を忘れないようにしたいところです。
逆の言い方をすると、研究を本気で追求する場合、彼氏彼女との時間をある程度犠牲にしなければならない時期も出てきます。博士課程や研究活動特有のワークライフバランスについては、予め理解を得ておくのが重要です。
【まとめ】博士課程でも恋愛や結婚はできるが研究とのバランスも自己責任
今回の記事では、「博士課程では恋愛できない」「研究者は結婚が難しい」というイメージに対して、その実態や事例などを紹介してきました。
確かに、時間的な制約や成果へのプレッシャーなど、研究者ならではのハードルはあるかもしれません。しかし、30代後半の研究者の婚姻率は、日本全体の平均値と同じでした。
もしも、魅力的なパートナーがいるのであれば、博士課程や研究職の困難さとそれに伴うやりがい、そして自分が今追求している成果やその情熱について、素直に伝えるのが一番重要です。
理解してもらえないと嘆くより、理解してもらえるように伝え続けるコミュニケーションが、二人の絆を強くすることでしょう。
この記事が、博士の研究生活と充実したプライベートを両立させるための一助となれば幸いです。
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