ポスドクの年収は平均いくら?海外と比べて給料安すぎ…?

お金

博士課程修了後、ポスドクとして研究者のキャリアを築いていく人は多いです。

しかし、ポスドクの年収は「安い」「悲惨」と言われることがあります…

  • ポスドクの平均年収は?
  • ポスドクの待遇、その実態は?
  • 海外のポスドクと比較しても給料が安い?

本記事では、上記のようなポスドクの平均給与・年収の実態について解説していきます。

結論としては、確かに収入面でポスドクを選んでいる人は少ないかもしれません。

しかし、後から振り返ると「ポスドクというポジションが最も研究に集中できる重要な時期だった」と感じる人は非常に多いです。

ポスドクをキャリアアップのために必要な武者修行の時期と捉え、収入面だけではなく、自身の研究力向上の面を前向きに見ることができるといいのかもしれません!

また、国としてポスドクの収入についてどのような問題意識を持ち、対策を検討しているのか…研究者の待遇に関する今後の明るい方向性についても紹介していきます。

ポスドクの平均年収はいくら?

2024年3月22日に、文部科学省が『ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2021年度実績)』を公表しました。

この調査によると、2021年度におけるポスドクの月額給与水準は35万円~40万円の人の割合が最も多く「16.8%」でした。

次いで30万円~35万円が「16.4%」で、20万円未満のポスドクが「15.2%」いました。

平均年収の記載はないものの、3割近くのポスドクが月35万円→年収420万円前後の給与を貰えているという実態があります。

2008年の調査と比較すると・・・

少し古いデータですが、文部科学省が公表している『ポストドクター等の研究活動及び生活実態に関する分析』によると、2008年のポスドクの平均月収は306,000円です。

単純計算で12倍すると、平均年収は約367万円となります。

研究分野、勤務先、経験年数によって差がありますが、一般的に見ても「給料が高い」とは言えないデータです。

ちなみに、研究分野別に見ると、工学系の平均月収が約330,000円であるのに対し、人社系は213,000円となっています。

この調査では、人社系で「無給」という回答も多く、平均給与が低くなっているようですが、フルタイムではないポストが比較的多いことも、その一因と考えられます。2021年の実績でも、この傾向はみて取れます。

前掲の2021年度実績のデータと単純比較することはできませんが、大きな傾向で捉えると、ポスドクの年収は十数年間でアップしているようです。

特別研究員-PDに採択されたら年収は434万円

ポスドクが日本学術振興会の特別研究員制度に採択された場合、PD・RPDでは研究奨励金として月額362,000円が支給されます。

年収換算すると4,344,000円となりますが、この研究奨励金は給与所得として扱われるため、各種税金などが引かれます。

※令和5年から「研究環境向上のための若手研究者雇用支援事業」が始まり、受入研究機関がPDを雇用する制度が始まっています。詳しくは後述します。

ポスドクの年収:東大・京大でも低い?

ちなみに、ポスドクでも、日本トップレベルの研究機関、例えば「東大」や「京大」だと年収に違いはあるのでしょうか?

学振PDの場合は東大でも京大でもどこの大学でも、学振からの研究奨励金は同額です。

その他のポスドクポストも、学振PDの金額を基準にして給与設定しているケースが散見されます。

ただし、特に専門性の高い分野や熟練した経験が必要な場合においては、東大・京大に限らず「年収600~700万円」の任期付き研究員が募集されることもあります。

具体的な求人の事例が気になる人は「JREC-IN Portal」で 大学×ポスドク相当×任期あり を検索してみてください。

博士課程修了で国家公務員になった場合の給与と比較すると…

参考までに、博士課程を修了して国家公務員になった場合の初任給と、ポスドクの年収を比較してみましょう。

2023年4月から、博士課程を修了した国家公務員の初任給は年8万円引き上げられ、年収換算すると約480万円になっています。(残業手当などは除く)

ポスドクの平均年収300~400万円と比較すると、金額に差があることは否めません。

ポスドクのボーナス/社会保障/福利厚生は…

ポスドクの待遇面をもう少し深掘りしてみましょう。

まず、ボーナス(賞与)はほとんどの場合、支給されません

そして社会保障の面では事業者負担の無い「国民年金」「国民健康保険」に加入しているポスドクもいます。月収の中から自分で支払いをしなければならないため、可処分所得が減ってしまいます。

福利厚生を見てみると、退職金は多くの場合ありません。また、住宅手当や通勤手当も支給されないことがあります。

単純な平均年収だけでなく、総合的な待遇面で、ポスドクの満足度は低くなっているようです。

上記内容は『生命系におけるポスドク並びに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題』を参考にしていますが、生命系以外の分野でも似たような状況と言えるでしょう。

ただ、このような待遇面も改善されています。詳しくは後述します。

日本のポスドク給与は海外と比べて安い…?

「日本のポスドクは年収が低い」と言われますが、海外ではどのような給与水準なのでしょうか?

まずは研究大国アメリカについてです。

米国で研究職の雇用財源の一部を担う米国立衛生研究所(NIH)が2022年に示した給与基準では、ポスドク1年目の年収は5万4840ドル(約713万円)となっているようです。(参考:日本経済新聞

あくまでも基準なので、実際にはこの金額を下回ることもありますし、物価自体が違いますが、日本と比べるとやはり高額です。

また、2020年にNatureが世界各国のポスドクを対象に実施したアンケートでは、次のような給料事情が分かりました。

回答したポスドクのうち42%は年収515万円~825万円の水準にあります。それ以上の給与をもらっているポスドクが3%。年収310万円~515万円の人が38%。年間310万円未満のポスドクは15%いたようです。

総じて、海外におけるポスドクの年収は、日本と比べると高いことがうかがえます。

ポスドクの年収・待遇の支援策は大きく動き出している

日本のポスドクの待遇が良くない…という点については、当然ながら国としても危機感を持っています。

そこで、国としてもポスドク支援の施策・方向性を大きく進めています!

以下、2つの具体例を紹介します。

①研究環境向上のための若手研究者雇用支援事業

令和5(2023)年度より日本学術振興会・大学・企業が一体となって実施しているのが「研究環境向上のための若手研究者雇用支援事業」です。

今まで身分の不安定だった特別研究員ーPD、RPD、CPDが、より安心して研究活動を進められるよう、大学や企業に雇用されることを促すシステムです。

従来は「研究奨励金」として日本学術振興会から支給されていたお金が、受け入れ研究機関から支給されるようになり、各種手当がついたり、各種社会保険が適用になったりしています。これは実質的な年収アップと言えます。

「学振PDの雇用を促す」という従来では考えられなかった施策が、既に実施されているのです!

②40歳未満の本務教員数を2025年度に1割増加

若手研究者(ポスドク)のキャリアをより安定させるため、アカデミアポストの確保にも動き出しています。

科学技術振興機構による『研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ』では、2025年度に40歳未満の本務教員数を1割増加させることを目指しています。

さらに将来的には全体の3割以上になることを目指しています。(2016年時点で23.4%)

ポスドクから正規職員になれず、単年での契約更新を続けている人も少なくないため、国がポスト及び予算額を確保しようとする動きは若手研究者にとって魅力的です。

その他にも、今までに実施されてきたポスドク向けの支援事業は継続中です。

科研費の「若手研究」や「研究活動スタート支援」をはじめとして、ポスドクが応募できる事業は数多くあります。

詳細は日本学術振興会の「若手研究者向けの支援事業一覧」のページを参照ください。

ポスドクには大きな魅力や価値がある!

ポスドクというポジションは、比較的研究活動に集中しやすいため、研究者としてのスキルや能力、研究業績を積み上げるために重要な「武者修行の期間」となります。

ほぼ100%研究だけにフォーカスできる貴重な時間で、大きなやりがいを感じているポスドクも多いです。

ただし、実際のところ、生涯ずっとポスドクで研究を続けていこうと考えている人は、まずいません

ポスドクとして経験・実績を積み、国研のパーマネント職、助教・准教授・教授あるいは企業研究者を目指すのが一般的です。なお、研究実績を評価され、若くしてポスドクから助教になる人もいます。

研究に集中でき、自分のスキル向上を実感できるポスドクというポジションは、実は研究者として非常に重要で、大きな価値がある期間なのです!

【まとめ】ポスドクの年収は高くはないが、研究者として重要な期間

今回のブログ記事では、ポスドクの平均年収を確認したのち、現在進行中の待遇改善、そしてポスドクの価値についても解説してきました。

要点をまとめると、以下の通りです。

  • 近年は月収35万~40万円を貰うポスドクが多い
  • 国がポスドクの身分安定、収入改善を進めている
  • 収入よりも、研究に集中できる環境や、自身のスキルアップを魅力に感じるポスドクが多い

国としても、博士学生やポスドクなどの若手研究者の減少や、キャリアパスの不透明さによるモチベーションの低下には危機感を持っています。

今回紹介したような施策を含め、国はポスドクなどの若手研究者に対する給与・待遇を総合的に改善していく方向性で動いています

ポスドクが伸び伸びと研究活動に専念できる環境が一層整うことを期待したいですね!本記事が参考になれば幸いです。

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