博士学生の間では「学振」について話題になることも多いです。
日本学術振興会の特別研究員DC1/DC2のことを、「学振」とよく呼びますが、学振に採択されると、「すごい」と言われるのはなぜでしょうか?
- 学振は奨励金の金額がすごい?
- 学振は採択率が低いから、すごい?
- DC1/DC2に選ばれたらエリート?
- 採用されるためには運と環境も大事?
このような情報を、記事にまとめました。
学振DC1/DC2に採用されれば、毎月20万円の研究奨励金と、年150万円の研究費を貰うことができます。
しかし、採択率は平均的に20%前後で推移しており、選ばれるのは簡単ではありません。
特に修士課程で申請するDC1に選ばれると「優秀なエリート」と周りに思われることもありますが、実際には運や、テーマや、環境という要因も大きいです。
今回の記事では、「学振のすごさ」と、採用されるために大切なポイントを解説します。
学振DC1/DC2の好待遇がすごい
学振とは、優れた若手研究者の養成・確保を図るための制度です。
- DC1:修士課程2年次に申請 → 博士課程1年次より支給
- DC2:博士課程1、2年次に申請 → 申請の翌年度より支給
博士学生にとって、上記2種類に採用されることは大きな意味を持ちます。
まずは、経済面。
前述の通り、毎月20万円の研究奨励金と、年間150万円以内の研究費が給付されます。
学生でありながら、これだけの好待遇を受けることができる学振ですから、「すごい」「憧れる」「なんとしても取りたい」と博士学生が思うのも当然でしょう。
学費や生活費に不安を感じる博士学生は少なくありません。
研究で忙しい中、アルバイトでお金を工面する人もいます…。
そんな中、学振に採用されれば、生活費としても自由に使える奨励金を貰うことができ、研究活動に集中することができます。また、研究に関係のある範囲であれば、新しいパソコンやタブレット端末を購入することもできるのです!
学振の採用率は20%前後…選ばれたら”すごい”のか
令和4年度の学振申請者数と、採用率(採択率)を見てみると、以下の通り。
- DC1:申請者3824人→採用者707人(18.5%)
- DC2:申請者5833人→採用者1094人(18.8%)
日本学術振興会の「特別研究員採用状況について(新規分)」を見ると、近年はおおむね20%前後の採用率で推移しています。
もう少し長期的に見ると、「DC1/DC2」への申請者数は増加傾向にあります。
2009年を見ると、DC2への応募は4231件で、採用率は29%でした。
いずれにしても、優秀な修士・博士学生が応募する中で、採用率20%の審査に選ばれるのは簡単ではありません。
学振が「研究職への登竜門」と呼ばれる所以でしょう。
DC1に採用されるのはエリートだけ?
博士学生の中では、「DC1に採用されるのはエリートだけ」といったイメージもあります。
確かに、DC1は修士2年で申請する必要があるため、その時点で「研究実績」をあげているのは素晴らしいことです。
特に評価される研究実績は、「査読付き論文への掲載」だと言われています。
論文掲載が承認されるまでには数か月かかる場合もあるため、それを考慮すると、学部生時代からすでに研究論文を出す意識を持っていた「一部のエリート」が、DC1に採用されやすいのかもしれません。
ただし、当然ながら、修士課程で研究実績を残すためには、教員の指導方針や先輩たちの協力も強く影響すると言えます。
DC1に採用されれば金銭的にも実績的にも、周りから一歩抜け出せるのは事実かもしれませんが、実際は環境やタイミングの問題でもあるのですね。
学振に採用された博士のその後…就職にも有利?
学振に採用されると「すごい」と言われる理由を紹介してきましたが、その後の実績はどうなのでしょうか?
日本学術振興会の「特別研究員-DCの就職状況調査結果について」を見ると、5年経過後に「75.4%」の博士が常勤の研究職に就職できています。
一般的に見ると、DC採用者の常勤研究職への就職率は高いと言えそうです。
学振に採用されること自体がひとつの実績となり、就職の面でもアピール材料になっている側面があるのでしょう。
特に大学機関での研究ポストを狙う場合は、学振採用が「分かりやすい指標」となるため、有利に働くことが考えられます。
ただし、当然ながら学振採用者であっても就活でうまくいかないこともありますし、不採用だったからといって就職できないということでもありません。
博士の最新の就活状況については、博士情報エンジン「wakate」のセミナーなどでも得ることができます。
学振に採用されるために必要な条件は?
学振の申請書には、主に4つの項目があります。
- 現在までの研究状況
- これからの研究計画
- 研究実績
- 自己評価
申請書の中では、「これからの研究計画」が中心的になっていますが、「研究実績」もかなり重視されているようです。
具体的には、査読付き論文への掲載が最重要で、その他には学会での受賞なども評価になります。
特にDC2では、研究者として「実績」を見られますので、第一著者の論文が重要となるでしょう。
さらに、合計すると1万件に迫る申請書類を限られた人数の審査員が評価するため、「見やすさ」も非常に重要な要素となります。申請書の書き方のポイントについては、別の機会で紹介します。
学振審査は所属大学・コネは関係ない
当然のことですが、学振の審査では、所属する大学・研究室・教授のコネなどは関係ありません。
ひとりの研究者として平等に審査されますし、一般によく聞くような大学以外からの学振採用者も少なくありません。
実際の採用者リストは日本学術振興会にて公開されています。(令和4年度:特別研究員採用者一覧・DC1)
上記の通り、誰にでも採択されるチャンスがあるのが、学振です。
ただし、有名大学や大きな研究室では、学振通過のためのノウハウが蓄積されており、指導教員や先輩の協力を得やすいという側面があります。
一部の人は、それを「コネ」と勘違いしているのかもしれませんね…。
【まとめ】学振は金銭的にも実績的にも価値がある!すごい制度ですが、最後は実力が大切
今回の記事では、日本学術振興会の学振について、そのメリットや凄さについて解説してきました。
要点をまとめると、以下の通り。
- 学振DC1/DC2に採用されると毎月20万円+年150万円のサポートが得られる
- 申請者数は増加傾向で、それに伴って採用率は減少傾向
- 採用率はおおむね20%前後
- 学振が研究者としての実績のひとつになる
- DCの5年経過後調査では75.4%が常勤研究職に就いている
- 採択されるためには「過去の研究業績」も重要
繰り返しになりますが、学振に採用されるためには「環境やタイミング」の要素もあります。
また、短期的に研究成果が出にくいテーマの場合、アピールできる研究実績が積み上がっておらず、採用されるのが難しいというケースもありますね…。
確かに、学振に採用されると経済面で余裕が出ますし、実績面でも一定の評価を得ることができます。
しかし、学振の採否だけで、研究者としての「実力」が決まるものでもありません。
就職活動においては、学振に採用されたか否かよりも、その人の人間性や資質、考え方、そして研究能力や実務能力などで判断されます。
学振に採用されるのはすごいことですが、結果に一喜一憂せず、着実に自分を成長させていきましょう。
参考になっていれば幸いです。
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