博士からベンチャー起業家に!成功事例やメリットを解説【ストックオプションで一攫千金も?】

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博士の新たなキャリアパスとして、起業という選択肢が注目を集めています。

自身の専門分野で培った知識・研究成果・トランスファラブルなスキルを活かして、イノベーティブなビジネスを生み出すことは、博士にとって魅力的な選択肢の一つです。実際、大学発ベンチャーの数は増加傾向にあり、政府もそれを後押ししています。

本記事では、博士が起業することのメリットや、その現状・成功事例などを解説していきます。

博士による起業の現状とは?

博士学生および博士号取得者が起業することは、まだまだ「一般的」とは言えません。

博士課程修了者の進路先をまとめた「学校基本調査」では、進学者・就職者・有期雇用労働者・臨時労働者・臨床研修医・左記以外の者・死亡不詳という項目しか示されておらず、起業は「左記以外の者」に含まれるようです。ただ、「左記以外の者」の事例としても起業は挙げられておらず、「起業」の割合は低いのが実情です。

その一方、大学発ベンチャーの数は目に見えて増加しています。

引用:経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました

2014年度には1,749社だった大学発ベンチャーは、2023年度には4,288社にまで増えています。

もちろん、これらは博士学生や博士号取得者に限定したものではありません。しかし、CEOとなる前の最終経歴を見てみると、「教職員・研究者」が多いことがわかります。(※これらの多くは博士と推測できます。)

引用:経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました

また、割合としては多くないものの、「博士生」による大学発ベンチャーも「76社」あります。

文部科学省では、毎年「大学発ベンチャー表彰」を行っています。2024年受賞企業の代表者経歴を見ると、15社中7社のCEOが博士号取得者となっています。

博士は起業に向いている!

本記事で最も伝えたいメッセージとしては、「博士学生・博士号取得者は起業に向いている」ということです!

というのも、研究活動とビジネスはプロセスが似ているからです。

まず、両者とも「問題発見」「課題設定」から始まります。研究では未解明の課題を特定し、ビジネスでは市場ニーズや社会課題を見出します。

その課題に対して、仮説を設定し、検証のプロセスに入ります。研究では実験や調査を行い、ビジネスではプロトタイプの開発や市場調査を実施します。

そして、得られたデータを詳細に分析・考察し、結果を解釈します。最後に、発表と普及の段階があり、研究成果は論文や学会にて発表され、ビジネスでは製品やサービスとして市場に投入されます。要するに、日々が課題解決の繰り返しです。

以上のように、博士が研究活動に取り組むプロセスは、ビジネスの世界でも非常に有用なのです。

博士が持つトランスファラブルスキルが起業に役立つ

さらに言うと、博士人材は自分の研究を突き詰めていく中で、トランスファラブルスキルを高めることができます。

不確実で常に様々なリスクがあり、長期間に渡る試行錯誤が必要なビジネスの世界ですが、博士人材は研究活動の中で、複雑な問題に対して、批判的思考を持ちながら粘り強く検証を繰り返す姿勢は身に着けているはずです。

また、最先端の知識や技術を持つ博士人材は、イノベーティブな製品やサービスを生み出す可能性が高いです。

自覚がない人も多いのですが、博士課程での研究活動を経験した人は、起業で求められる能力の多くを既に持っていると言ってよいでしょう。

博士が起業して成功した事例は?

博士号取得者がベンチャー起業家として成功するケースは多岐にわたりますが、ここでは大学発ベンチャーが上場に成功した事例を中心に、具体例を見ていきましょう。

少し前のリストですが、2020年にエコノミストOnlineが発表した「大学発上場ベンチャー起業64社の一覧」の中でも、上場時時価総額が高く、博士が創業者となっていた5社をピックアップし、2024年現在どうなっているかを確認してみました。

(※以下、企業名・上場日・2024年10月時点時価総額の順に記載)

  • ペプチドリーム・2013年6月・3536億円
  • PKSHA Technology・2017年9月・1143億円
  • ユーグレナ・2012年12月・596億円
  • Gunosy・2015年4月・189億円
  • ユーザーローカル・2017年3月・292億円

上場企業のうち、5年生存率は81.7%というデータがある通り、一度上場に成功しても、市場から撤退してしまうことは少なくありません。

そんな中、大学発ベンチャーとして起業し、上場して、しかも東証プライム市場で現在も持続的に発展しているのは「成功例」と言えるでしょう。

博士起業家の資産額:ストックオプションを10%所有していたら…?

余談ではありますが、博士が起業して、上場に成功した場合の資産額はどのくらいになるのでしょうか?夢のある話のひとつとして、簡易的に紹介します。

Coral Capitalが公開している「【調査】平均SO率は9.3%―、最近の上場32社のストック・オプションを調べてみた」という記事において、2022年12月に上場した32社の「代表取締役持ち株率」が示されています。企業によって方針が大きく異なるものの、おおむね10~30%程度になっている企業が多いようです。

仮に、前掲の5つの企業における代表取締役持ち株率が10%だった場合、ペプチドリームでは353億円、PKSHA Technologyでは114億円の資産を保有する計算になります。

想像できないほどの資産を手に入れられるのは、起業家の特権かもしれません。

博士が起業することのメリットは?

博士人材が起業することには、いくつかのメリットがあります。

第一に、博士号取得者が持つ高度な専門知識や技術がそのままビジネスの基盤となります。例えば、博士人材自身が研究を通して獲得した技術や専門性を礎として、大学等が保有する最先端の研究成果や特許などを事業化することで、高い付加価値を持つ製品やサービスを展開することができます。

また、自らの活動を直接的に社会に結び付けられる点も魅力でしょう。研究者という立場だと、研究成果を社会に提供する立場に留まります。起業することで、自身が価値を見出した研究成果や技術の社会実装に取り組むことになりますので、ダイレクトに世の中の反応を確認することができます。

最後に、博士号という学位そのものが、ビジネスマンとして高い信頼性を生み出します。特に、海外の起業家の中にはドクターを持っている人が多く、クライアントやパートナーとの関係構築に有利に働くことがあります。

ちなみに、前掲の2024年「大学発ベンチャー表彰」を受賞した増井公祐さんは「博士号の価値」について、以下のように述べていました。

政府も起業を後押し:スタートアップ育成5か年計画

2022年11月28日に、政府は「スタートアップ5か年計画」を決定しました。

日本に第二の創業ブームを生み出し、スタートアップ企業の絶対数を増やすとともに、規模の拡大も同時に着目するとして、投資額を約10倍にする大目標を掲げています。

3つの柱として、①人材・ネットワークの構築、②資金供給の強化と出口戦略の多様化、③オープンイノベーションの推進、を進めています。日本も、さらにスタートアップへの支援環境が整ってくることでしょう。

まとめ

今回のブログでは、博士が起業することについて解説してきました。

繰り返しになりますが、研究活動もビジネスも、課題設定→検証→解決という試行錯誤プロセスは同じです。端的に言うと、博士号取得者は起業に向いています

特に近年、技術が分野を越えて結びつき、バイオとAI、ロボットと医療、社会学とビッグデータといった組み合わせから、革新的な製品やサービスが誕生しています。幅広い技術や知見を横断的に理解した起業家の重要性がますます高まっています。

博士が研究者としてのキャリアを選択する以外にも、起業という選択肢にも目を向けるようになると、社会的にも面白くなってくるかもしれませんね。

なお、博士情報エンジン「wakate」では、博士課程在学中に起業した人とのトークセッションを開催したことがあります。今後も、博士がキャリアを考える際の参考になるイベントを予定しているので、チェックしてみましょう。

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