博士号取得のメリット~取得後のキャリアパスまで解説~

キャリア

博士課程への進学を検討している方や、進学を決めたものの、次のような疑問が残っているという方も多いのではないでしょうか。

「博士課程に進む前に、改めて博士号取得のメリットを確認したい」

「修士課程と博士課程で何が変わるのか知っておきたい」

「博士号を取得した後のキャリアについてもう少し具体的に把握したい」

博士号という学位自体がメリットになることは間違いありませんが、厳密にいえば「博士課程におけるプロセスで身につくスキル」にも大きな価値があります

そこで今回は、博士号取得のメリットについて詳しくご紹介するとともに、博士号取得後のキャリアパスや、市場価値を含めた将来性などにも触れていきますので、ぜひ参考にしてみてください。

博士課程は、単位取得 < 論文のための研究 >

大学の学部・修士課程においては「単位取得」が大きなミッションですが、博士課程では講義科目の履修による単位の取得数が少なくなる(ほとんどなくなる)代わりに、「研究発表」「論文投稿」が大きなミッションとなります

研究発表

主には国際学会や国内学会での研究成果の発表を目指します。この研究発表を含めた一連の研究活動を通して博士として必要なスキルを身に付けていきます。

論文投稿

論文には以下の2種類があります。

・大学に提出し、国会図書館に収蔵される論文(学位論文)

・学術誌等に掲載される公開論文(投稿論文)

これらのうち、投稿論文についてはその投稿先(学術誌)によって評価に違いがあります。それぞれの学術誌にはインパクトファクターという指標があり、これは掲載された論文の世の中への影響度を数値化したものです。この値は掲載された論文が、どれほど他の研究の参考になったか(引用された回数)で決定され、歴史が長いほど高い傾向があります。

たとえば、Nature、Scienceなどはインパクトファクターがとても高い学術誌ですが、ニッチな領域や比較的歴史の浅い学術領域などでは低くなる傾向にあります。また、多くの場合、投稿した論文と同じ専門領域の研究者による査読(ピアレビュー)が行われ、学術誌への掲載可否が決まります。

博士課程では、研究だけでなくこれら2種類の論文を作る過程でも博士として活躍するために欠かせないスキルが身に付いていくわけです。

博士課程・博士号取得後のメリット

学位が得られることだけが博士課程のメリットではありません。博士号取得の前と後、それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。

博士課程で得られるメリット

博士号取得前では次のメリットを見出すことができますが、どれも博士課程ならではの経験を伴い、研究者として大きな成長が期待できます。

1.研究を深められる

自分の研究に没頭することができるため、博士号を取得するまでの間にその分野の知見を深められます。修士課程よりも多くの時間を研究に費やせるため、研究にやりがいを感じる人にとっては最適な環境といえるでしょう。

2.論文執筆による文章力向上

論文を作成する際には、何をおいても正確性を意識しなければなりません。一方で、人が読む文章ですので、冗長な表現を避けるなど読みやすさ・簡潔さを意識することも必要です。それらの意識こそが、博士に欠かせない文章能力の向上につながります。

たとえば、論文の執筆過程では、「概要(Abstract)」から始まり、本文では「研究の目的」「背景」「実験方法」「結果」「考察」「結論」という流れに沿った論理展開を文章化するスキルが磨かれていきます。こうした論文独自の書き方を学んでいくうちに、論文執筆にとどまらない文章作成の能力が養われていきます。

3.仮説検証能力が鍛えられる

結果を予測しながら仮説を立て、実験などを通してその仮説が正しいかを検証する作業を繰り返すことで、仮説を立てる力や検証力、さらには結論を導きだす思考力が身に付きます。また、指導教員や研究室メンバーとのディスカッションから得た知見を自身の研究に採り入れたり、研究成果がもたらす社会的、学術的な影響や次の研究計画への発展などを考えたりすることで応用力も身に付くでしょう。

4.批判に耐える力

博士課程での研究生活では、日々のディスカッション、ゼミ、学会発表、論文執筆などにおいて教授などから否定的な意見や批判を受けることも少なくありません。しかし、そうした厳しいフィードバックがあるからこそ良い論文へとブラッシュアップされていきます。

そのため、博士号を取得する頃には批判に耐え、適切に受け止めて成果に反映させたり、根拠に基づいた主張を理解してもらうための説明をしたりする力が培われているはずです。

博士号取得後のメリット

博士号の取得は「一定の研究能力を有している」ことの証明ということができ、論文のテーマに対して関連性が高い企業などから注目が集まる可能性があります。また、入社してすぐにプロジェクトや研究テーマを任せられることもあります。

なお、国際的な研究者を目指すには、「博士号取得」は最低条件と言っても差し支えないでしょう。海外では、名刺にPh.D.と記載されているだけで一目置かれることも少なくありません。そのため、グローバルに活躍する研究者を目指す人にとっては博士号の取得自体が大きなメリットとなります。

博士号取得後の進路は?

博士が企業で活躍する事例は、以前に比べだいぶ増えてきています。以下は博士号取得後の一般的な進路の例となりますが、ここ数年で企業への就職の道も大きく拓けてきています。

大学や公的研究機関などアカデミアの研究者

文部科学省の『博士課程在籍者等のキャリアパスに関する意識調査』によると、大学や公的研究機関などアカデミア志望者は約6割を超えています。研究者の多くが目指すキャリアパスであり有名大学や定年制(テニュア)など人気のポストに就くためには、論文数や学会発表(特許、著書なども含む)などの研究業績や教育実績を重ねる必要があります。

民間企業での研究職

ひと昔前まで、新卒でも30歳前後となる博士人材は扱いにくいと言われていたようですが、現在は少しずつ企業の意識が変化してきています。最先端技術を常にキャッチアップし、あるいは生み出し世界と伍していく必要性のある企業などでは、博士の能力に大きく価値を見出してしています。

官公庁・地方自治体等への就職

文部科学省、農林水産省、国土交通省などの中央省庁や、地方自治体が管轄する研究所、公設試験場などへ就職する道もあります。

海外での研究職

海外の大学や研究機関に勤務するキャリアパスもあります。ポスドク等の場合、いわゆる「武者修行」としての位置づけともなり、国内では得られない知見や経験を得られる機会があります。一定の経験を積んだ後、帰国して大学教員や企業研究職を目指す道もあれば、そのまま海外でテニュアポストに就く選択肢もあります。

なお、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が製造業の研究開発部門を中心にインタビューを実施した際は、企業の約8割が、博士課程修了者の印象を「期待通り」「期待を上回った」と評価しています。博士人材を積極的に採用する企業や、専門分野に特化したキャリアパスパスを整える企業も徐々に増えてきています。

(参考:科学技術・学術政策研究所「民間企業における博士の採用と活用 -製造業の研究開発部門を中心とするインタビューからの示唆-」https://www.nistep.go.jp/archives/19792

まとめ

博士号の取得には、学位そのものだけでなく、その取得過程でもさまざまなメリットを享受できることがお分かりいただけたでしょうか。もちろん、博士課程修了後の進路は研究職に限りません。近年ではご自身の研究成果や専門知識を基に起業する博士人材も増えています。博士課程での研究の先に何があるか、何をしたいかをよく考えたうえで、ご自身のキャリアパスを描いてみてはいかがでしょうか。

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