なぜ、日本では修士課程修了者の博士課程への進学率が低いのか?

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この記事を読まれている人は、漠然とでも「博士課程に進学する人が減っている」という感覚を持たれているでしょう。

今回は、様々な調査結果などから「博士課程入学者」が減少している状況を見ていくとともに、どのように博士課程への進学と向き合っていくべきかを考えていきましょう。

調査結果から分かる博士課程への進学率

文部科学省によると、大学進学率は2018年には57.9%(平成30年度学校基本調査(確定値)の公表)まで上昇している一方で、大学院修士課程への進学者は2011年以降、減少傾向にあるようです。博士課程への進学者も2011年以降減少の一途をたどり  、2017年年には1万5,000人ほどに減っています(成30年度版の『科学技術白書』より)。

(出展:文部科学省「平成30年度学校基本調査(確定値)の公表について」
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/12/25/1407449_1.pdf )

なお、修士課程修了者数と博士課程進学者数を比較すると、修士課程修了者数においては2003年度以降おおむね横ばいで推移しています。一方、社会人の博士課程への入学者は増加傾向にありますが、修士課程修了後の博士課程への進学者は2003年度以降は減少傾向にあり、2003年と2018年を比較した場合は40%以上の減少が読み取れます。

   
(出展:文部科学省「平成30年版科学技術白書」
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa201801/detail/1418496.htm )

また理工学系学生に絞った少し古いアンケート調査になりますが、科学技術・学術政策研究所が2009年に行った調査では、博士課程への進学を検討する際の重要な条件に対する回答結果が発表されています。この調査結果では、進学に対する経済的支援の拡充と、修了後の就職の拡大が、博士課程への進学には重要視されていたという結果になっています。

(出展:科学技術・学術政策研究所「日本の理工系修士学生の進路決定に関する意識調査」
https://nistep.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=4682&item_no=1&page_id=13&block_id=21 )

まだまだ少ない女性博士の割合

女性の社会進出が進むにつれ、研究者というキャリアを視野に入れる女性も少なくない時代になりました。また、進学支援なども充実してきたことにより、理系の学部に入学する女性も増加しています。しかし、実際に博士課程に進み博士号を取得する女性の数は諸外国に比べ少ないのが現状です。

経済協力開発機構(OECD)が発表した、2019年版「図表でみる教育」によると、大学の理系修士、博士課程修了者において女性の占める割合は、調査対象の43か国のうち最下位となっています。

参考:経済協力開発機構(OECD)「図表でみる教育」
https://www.oecd-ilibrary.org/education/education-at-a-glance-2019_f8d7880d-en

では、日本で女性の博士課程進学率が伸び悩んでいるのはどうしてなのでしょうか?その理由をひとまとめにするのは難しいですが、たとえば工学部などは「女性向けではない」といった古くからのイメージや、女性研究者のロールモデルが少ないことが影響していると考えられます。

そのため、大学、公的研究機関等は、女性の研究者数が極端に低い現状を課題として受け止め、さまざまな支援を行い始めています。そのような女性研究者を支援する活動が活発になってきているものの、大学・研究室での指導者、共同研究者、同僚、家族、当人自身による男女の性差については、さらなる意識の改革が必要かもしれません。

最初の難関は家族の説得?

家族によって博士課程への進学を阻まれるというケースも決して珍しくありません。本格的な研究が始まる学部4年生や修士1年生の時期に反対されるケースが多いようです。当初は修士で就職する予定であったものの、研究室で実際に研究の一端を担うようになることで、その面白さに触れ、もっと研究したいと考え始める学生も少なくありません。しかし、家族にとっては想定外で、フラフラしている印象すら持つかもしれません。また、修士までは面倒見るけど博士の学費は自分で賄え、と迫られることもあるかもしれません。

このように、家族が博士課程への進学に対して理解してくれない場合には、博士号取得の意義・やりがい、そしてなぜ進学したいかという想いや動機をしっかりと説明することが大切になります。また、経済面で大きな負担または心配をかけないために奨学金や返還免除制度などについてもよく調べておき、家族の不安を低減することも重要なポイントとなるでしょう。

進学後に後悔しないために

この記事を読まれている皆さんにも、博士課程への進学を迷われている方がいるかもしれません。特に博士課程を修了した後の進路については、不安な点も多いでしょう。もちろん進学してみないと分からないこともありますが、あらかじめ以下のような切り口から情報を収集しておけば、博士課程修了後の進路を考える際に役立てられるでしょう。

社会的な評価を意識する

今、社会(将来の就職先となる企業・大学・研究機関など)が博士人材をどう評価し、これからどう評価するようになっていくのかを考えてみてください。博士号を取得している先輩や教授、関連業種の知り合いなどを含め、なるべく広く客観的な情報を集めるといいでしょう。

博士課程から企業就職という進路もある

博士人材のキャリアパスといえば、旧来は「助教→准教授→教授」のイメージでしたが、近年は多くの博士人材が企業就職しています。大学で教授を目指したり、公的な研究機関で研究者として研究を続けたりする(アカデミアで生きていく)ことがすべてではなく、博士人材が活躍している企業も多くあることを念頭に入れておいてください。

まとめ

日本における博士課程進学状況を見てきました。進学率は決して高くはありませんが、博士課程に進学することで得られる経験やスキル、さらに博士号という最高位の学位は研究者として歩むためにはかけがえのないものです。高度な時代に移り変わるにしたがって、博士活躍できるフィールドもきっと拡大していきますので、「博士課程に進学して何を成し遂げたいのか」「博士号を取ってどのような自分になりたいのか」をしっかりと見定めてキャリアを描きましょう。
また、広い視野を持って博士課程修了後のキャリアパスを考えておくためには、在学中からさまざまなコミュニティに参加し、多様な人たちと交流しておくのも重要です。

博士号を取得するメリットについてはこちらでも詳しくご覧いただけます。ぜひご参考にしてみてください!

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