論文博士とは?条件や取り方を紹介【制度廃止の議論もあるが…?】

キャリア

博士号の取得方法には大きく分けて、課程博士と論文博士の2種類があります。

「論文博士」とは、博士課程に在籍する必要がなく、研究成果を論文として提出することで博士号を取得できる日本特有の制度です。

  • 論文博士の条件や取り方は?
  • 論文博士のメリットとデメリットは?
  • 論文博士廃止の議論がある?

論文博士を目指す人や、博士号の制度に関心のある人に向け、上記のような内容を解説していきます!

この制度には賛否両論があるものの、課程博士として博士号を取得しなかった(できなかった)様々な事情を抱えた研究者にとって、柔軟な学習・研究機会を与えていると言えます。

本記事を通じて、論文博士の実情や今後の展望について、参考にしていただければ幸いです。

論文博士とは?

論文博士とは、大学院の博士課程に在籍しなくとも、提出論文が審査に合格すれば博士号が授与される制度のことです。

学校教育基本法第68条の2、学位規則第4条にて、博士の学位について以下のように記載されています。

〇博士
大学が当該大学院の博士課程の修了者に対し授与。
なお、博士課程については、課程を修了しない場合であっても、博士論文の審査に合格し、かつ、その大学院の博士課程の修了者と同等以上の学力があるとされれば、論文博士を取ることが可能(第2項)。

なお、論文博士のことを「論博(ろんぱく)」と呼ぶこともあります。

課程博士と論文博士の違い

繰り返しになりますが、課程博士と論文博士は、学位取得までのプロセスが大きく異なります。

課程博士は、博士課程に入学し、定められた期間で所定のカリキュラムを履修しながら研究を進め、在学中に博士論文の審査承認を得ることで学位を取得します。

一方、論文博士は、博士課程に在籍する必要はなく、独自の研究成果に基づいた論文を提出することで学位を取得できます。

論文博士は日本だけ?海外には見られない制度

この論文博士は、日本独自の制度で、諸外国には存在しません。(厳密には海外でも類似の個別事例はあるようですが、制度として定められてるのは異例です。)

大学院に進学できない社会人や、海外で研究生活を送っている人でも、自身の研究成果を認められれば博士号取得のチャンスがあるという点で意義があります。

ちなみに、東京大学の令和4年度の論文博士の人数は「78名」で、毎年80~100名程度の取得者がいるようです。人数の絶対数は多くないものの、継続的に活用されている制度であることがわかります。(参考:東京大学・論文提出による博士学位取得者数

論文博士の最終学歴は?

論文博士は、課程博士と同等の価値を有しています。

しかし、博士課程を修了したわけではありません。そのため、履歴書に「博士課程修了」と記載することはできず、最終学歴はあくまでも「修士課程修了」ということになります。

履歴書への記載においては、正式な書き方は特に定められていないようです。

ただ、例えば千葉科学大学が論文博士について言及しているページ(※サイト内検索ページにリンクします)の中で、以下のような書き方の例があげられていました。あくまでも一例ですが、参考までに転載させていただきます。

(課程博士の場合)
◯◯研究科◯◯専攻 博士課程(後期) 修了
博士(◯◯学)

論文博士の場合
博士(◯◯学)(第△△△号)の学位授与(◯◯大学大学院◯◯研究科)

上記のように、博士課程に在籍し修了したのではなく、論文博士として学位取得したことがわかるように記載するとよいでしょう。

論文博士の申請条件は?

論文博士を目指す場合、まずは大学に申請する必要があります。

申請条件の基本的な考え方としては、前掲の学校教育法で定められた通り『博士論文の審査に合格し、かつ、その大学院の博士課程の修了者と同等以上の学力がある』ことが必要ですが、各大学によって細かな条件は異なります。

例えば、東北大学では以下のようになっていました。

東北大学大学院文学研究科博士課程後期3年の課程を経る者のほか、次の各号の1に該
当する者とします。

(1)大学院博士課程前期2年の課程(修士課程)修了後、4年以上の研究歴を有する者
(2)大学卒業後、7年以上の研究歴を有する者
(3)本研究科委員会が前2号と同等の研究歴を有すると認定した者

大学院の課程を経ない者(論文博士)の学位授与の申請について

研究歴について、より詳細な条件が課されている大学(研究室)もあるため、申請条件は事前に確認・相談をする必要があります。

また、過去の査読付き論文発表実績については、博士課程学生よりも高いレベルが求められる傾向があります。また、「第一著者であるか」「掲載後5年以内であるか」などの条件がつけられているケースもあります。

申請条件をすべて満たしていた場合、具体的にどのように論文博士を取得できるのでしょうか?その流れを見ていきましょう。

論文博士の取り方は?具体的なステップを紹介

論文博士の取り方について、一般的な流れを説明します。

(※繰り返しになりますが、各大学によって申請方法は異なります。)

1. 大学院の要件確認

まず、どの大学院で論文博士を取得できるのか、条件を確認します。出身大学が論文博士制度を扱っていない場合もあります。大学院によって申請の流れや必要条件は異なるため、自ら問い合わせてみましょう。

2. 指導教員の選定

次に、申請する大学院で指導教員を探します。指導教員は論文審査の主査になることが多いです。自分の出身大学を選ぶ場合、以前の指導教員に依頼することが一般的ですが、既に退官しているケースもあります。コネクションがない場合、自分から積極的に調査し、連絡をしていくことになります。なお、この段階では教員側はボランティアとして論文審査を引き受ける形になるため、配慮や感謝を忘れないようにしましょう。(後述の通り、最終的には審査手数料を支払う必要があります。)

3. 大学院への申請

指導教員が決まったら、必要な書類を準備して大学に提出します。予備審査を受けるために「論文全文」「論文要旨」と合わせて、「履歴書」「学位申請書」「業績目録」などの書類を揃えましょう。必要書類は大学によって異なるため、要項を確認しましょう。

4. 論文の審査

提出された書類を基に審査が行われます。書類審査に続いて、審査員の前でプレゼンテーションする機会が設けられます。提出した論文について細かく質疑応答がなされ、自分の研究をディフェンスする必要があります。大学によっては、課程博士と同様、予備審査と本審査が二段階で用意されているケースもあります。

ちなみに、課程博士の予備審査については「博士論文の予備審査は厳しい…不合格/落ちる可能性もあるので事前対策を」の記事で詳しく書いています。

5. 学位の授与

審査を通過したら、公表するための論文を製本するとともに、学位授与に伴う申請書類をそろえます。また、書類と共に、論文審査手数料が必要になります。参考までに一例を挙げると、東京大学は16万円東北大学は15万円または 7万5千円となっていました。

「論文博士廃止」の議論がある…時期はいつに?

日本では、近年、論文博士制度の廃止に関する議論が進められています。

文科省は論文博士の廃止について、以下のように述べています。

①学位は,大学における教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として大学が授与するものという原則が国際的にも定着していること,②国際的な大学間の競争と協働が進展し,学生や教員の交流や大学間の連携など,国際的な規模での活動が活発化していく中にあって,今後,制度面を含め我が国の学位の国際的な通用性,信頼性を確保していくことが極めて重要となってきていることなどを考慮すると,諸外国の学位制度と比較して我が国独特の論文博士については,将来的には廃止する方向で検討すべきではないかという意見も出されている。

文部科学省:円滑な博士の学位授与の促進

確かに海外では論文博士の制度が少なく、課程博士が一般的です。

国際的な学術交流や研究の標準化を考え、博士号の質の一貫性を保つために「廃止すべき」という意見があるのでしょう。

ただ、文科省は以下のようにも述べています。

一方,この仕組みにより,大学以外の場で自立して研究活動等を行うに足る研究能力とその基礎となる豊かな学識を培い,博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認められる者に対して博士の学位を授与することは,生涯学習体系への移行を図るという観点などから一定の意義があるとも考えられる。また,博士学位授与数に占める論文博士の割合は減少傾向にあるものの,他方で,企業,公的研究機関の研究所等で相当の研究経験を積み,その研究成果を基に,博士の学位を取得したいと希望する者もいまだ多いことや,論文博士と課程博士が並存してきた経緯を考慮することも必要である。

文部科学省:円滑な博士の学位授与の促進

例えば、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんのように、企業において世界最先端の研究をしている人もいます。研究者として最も重要なのは研究成果であり、必ずしも博士課程を修了する必要はないのでは…という意見も多いです。

文科省は、論文博士の廃止議論と今後の展望について、以下のようにまとめています。

例えば,博士課程短期在学コースの創設等の検討や,現在,日本学術振興会において,アジア諸国を対象とした「論文博士号取得希望者に対する支援事業」が実施されていることとの整合性についても留意することが必要である。また,論文博士については,戦前の博士号の考え方と同様の碩(せき)学泰斗型のもの,企業の技術者等がその研究経験と成果を基に学位を取得したもの,教育研究上の理由等により標準修業年限内に学位取得に至らなかった者がその後論文審査に合格して学位を取得したものなど性格の異なるタイプのものが存在しており,今後,その在り方を検討するに当たっては,これらについて考え方を整理した上で適切な取扱いを検討することが必要である。

文部科学省:円滑な博士の学位授与の促進

実際のところ、大学側で具体的に論文博士を廃止していく動きは、あまり大きく見られません。今後、直ちに論文博士制度が廃止になる可能性は低いと言えるでしょう。

しかしながら、例えば名古屋大学の医学科では2022年に論文博士の申請要領が改正され、論文博士に申請する際に期限が設けられました。(参考:名古屋大学大学院医学系研究科・医学部医学科「論文博士」

また、奈良県立医科大学においても、論文博士の廃止が学内で議論され、2016年から申請資格要件を厳しく設定しなおしました。(参考:奈良県立医科大学「博士の学位授与制度の改正について」

将来的に論文博士の取得を目指している人は、今後の展望に注意しておいた方がいいかもしれません。

まとめ

今回の記事では、論文博士とは何か、その条件や取得方法について詳しく解説しました。

論文博士は、博士課程に在籍せず、論文を提出することで博士号を取得する制度であり、既に別の研究機関に所属している研究者などにとって、魅力的な選択肢となっています。

課程博士と比較すると、論文博士を取得するためには条件や審査の難易度が高くなると言われています。社会人の場合、通常の勤務に加えて、論文や各種申請書類をまとめることになるため、時間の面でも労力の面でも困難が伴いますが、自分の研究成果をもとに博士号を取得することには代えがたい価値があるとも言えます。

なお、論文博士制度の廃止が議論されている現状もあるため、取得を検討している人は今後の動向に注意を払いましょう。

この記事が、論文博士を理解する一助になっていれば幸いです。

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