大学非常勤講師になるには?年収や必要資格、「すごい」「悲惨」と言われる理由等を解説

キャリア

博士課程後のアカデミックキャリアを考えたとき、大学の非常勤講師という選択肢があります。

ただ、大学非常勤講師に対しては「アカデミックポストに就ければすごい」という声もあれば、「ワーキングプアで悲惨だ」という声もあるのが現状です。

今回の記事では、大学非常勤講師のリアルな年収、なり方、そして博士学生だからこそ知っておくべきメリット・デメリットなどを解説します。

結論を言うと、非常勤講師は決してネガティブな選択肢ではありません

むしろ、アカデミックキャリア形成のための戦略的なポジションとなり得ます。その実態を正しく理解し、自分のキャリアプランに活かしましょう。

大学の非常勤講師とは?

大学教員の勤務形態には、どのようなものがあるのでしょうか。前提を整理するため、「勤務形態」「任期」という2軸で確認してみましょう。

まず、一般に「常勤」という言葉は、フルタイム(週5日、一日8時間勤務など)での勤務形態のことを指し、任期(雇用期間)とは別物です。ただし、世代によっては「常勤=テニュア(無期雇用)」として語られる時もありますので、注意が必要です。

この記事では、「常勤」はフルタイム勤務(任期とは別物)という意味で用いています。

大学でのポスト非常勤常勤
有期非常勤講師など
(※今回取り扱う内容)
テニュアトラック、特任助教など(3〜5年の任期付き)
無期嘱託職員などはあり得るが、非常に少ないいわゆる専任教員(教授、准教授など)

教授や准教授などの専任教員(常勤・無期雇用)は授業だけでなく、研究活動、学生指導(ゼミや研究室)、大学運営に関わる会議や委員会への参加など、多岐にわたる業務を担っています。

一方、特定の授業(科目)を担当するために大学に委嘱された教員を「非常勤講師」と呼びます。「兼任教員」や「嘱託講師」と呼ばれることもあります。

上記の表のとおり、「非常勤」かつ「有期」のポストなので、職業として不安定で、任期付きアルバイトのような働き方だと言われます。

しかし、長期的なアカデミックキャリアを考える上では、重要な経験ができるポストでもあります。以下、さらに深堀していきます。

大学の非常勤講師はどのくらいいる?

少し古いですが、『専業非常勤講師という問題』(社会政策学会誌『社会政策』第12巻第3号)という論文によると、2016年の国立大学教員数における「兼務教員(非常勤講師)」の数は40,031人で割合は37.8%。私立大学においては兼務教員が159,069人、割合は60.3%となっています。

2025年(令和7年)度の学校基本調査によると兼務教員の数は全国で200,244人となっており、近年はほぼ横ばいで推移しているようです。

非常勤講師の年収はいくらになる?

非常勤講師の収入は担当する授業(コマ)の数によって大きく変動します。

非常勤講師の給与は「1コマあたり〇円」という契約形態が一般的で、経験や専門性、大学の規定によって異なります。令和7年に東京大学が募集していた非常勤講師の給与条件では『経験に応じて時給4,000円~6,000円。1コマを2時間と計算する』とされていました。(※参考:東京大学教養学部非常勤講師(英語)

仮に、経験者が1コマ(2時間)12,000円で授業を担当するとします。半期の授業回数を15回とすると、
12,000円 × 15回 = 18万円(半期)
となり、年間(前期+後期)では36万円になります。

このように、週1コマのみの担当では収入は限定的です。

一方で、複数の大学を掛け持ちして週10コマ以上を担当し、年収300万~400万円を得ている人もいます前掲の論文によると、専ら非常勤講師を生業としている「専業非常勤講師」と呼ばれる人の平均年収は「306万円」だったようです。この水準を先ほどの条件(年間36万円/週1コマ)で換算すると、週9コマ程度を担当してようやく年収300万円に到達する計算になります。

また、社会保険に加入できないケースも多く、国民健康保険料や国民年金保険料を自己負担する点にも注意が必要です。

アカデミアのキャリアパスにおける非常勤講師の立ち位置は?

非常勤講師から常勤教員への明確な昇進ルートがあるわけではありません。また、非常勤講師という立場の中での昇進はありません。

しかし、アカデミアを目指す多くの博士学生やポスドクにとって、非常勤講師は「教授職への重要なステップ」という側面を持っています。

というのも、大学教員の公募では「教育経験」が求められることが多いからです。非常勤講師として授業を受け持った経験は、間違いなくアピールポイントとなるでしょう。

特任助教など任期付の教員ポストや、ポスドク等の研究ポスト+非常勤講師などで研究業績と教育経験を積んで、「常勤」かつ「無期」の専任教員を目指していくわけです!

以上のように、非常勤講師はゴールではなく、次のステップに進むための経験と実績を積むポジションとして戦略的に位置づけることが重要です。

大学の非常勤講師になるには?

では、どうすれば大学の非常勤講師になれるのでしょうか。

以下、多くの人が疑問に思うポイントをまとめていきます。

学歴や資格は必要?

非常勤講師になるためには、多くの場合「博士号以上の学歴」が求められます。

人文・社会科学系では、博士後期課程の学生が非常勤講師として授業を担当するケースもありますが、博士号取得者(あるいは博士課程満期退学者)の方が有利であることは間違いありません。

現役大学院生でも非常勤講師になれる?

前述のとおり、人文・社会科学系では、博士後期課程の大学院生がティーチング・アシスタント(TA)ではなく、非常勤講師を担当するケースも存在します。

名古屋大学高等教育研究センターの「博士課程修了者による大学教員職への就職」という調査によると、2016年度の非常勤講師のうち「6.85%」は博士学生です。

なお、理系分野だと博士学生が非常勤講師を担当するケースはほとんどなく、専攻分野によって大きな差があります。

大学非常勤講師の求人はどこで探す?

非常勤講師のポストは、指導教員からの紹介や、研究会・学会で知り合った教員からの声掛けによって得られるケースが多くあります。

そのほか、公募情報を頼りに応募する方法もあります。

公募の中には出来レースもあるって本当?

非常勤講師のポストは、公募を必須としないケースも多く、あらかじめ候補者が決まっている場合には、そもそも公募自体が行われないこともあります。

そのため、「応募したが実質的に候補者が決まっていた」というよりも、公募として出ている案件は比較的オープンに選考されているケースが多いと考えられます。

日頃から学会などに積極的に参加し、自身の研究内容や「将来はアカデミアで研究したい」という意欲を周囲に伝えておくと、チャンスが巡ってくるかもしれません。

公募はどこで探す?

公募情報を広く確認するには、研究人材向けの求人公募情報サイトJREC-IN Portal」をチェックするのが一般的です。実際に、2025年度には「非常勤講師相当」の求人公募が国公私立大学(短大含む)から1,502件登録され、2026年4月時点で「非常勤講師相当」の公募を検索すると約100件の募集が確認できます。

また、各大学のウェブサイトで個別に募集されることもあるため、関心のある大学の情報は定期的に確認しておくとよいでしょう。

公募サイトのチェックと並行して、研究者同士の繋がりも大切にしておくと良いでしょう。

大学非常勤講師になれたらすごい?メリット5つ

非常勤講師の経験は、あなたのキャリアにとって大きなプラスになります。

一般的にみれば、大学の教壇に立つことは社会的信用があり、「すごい」と評価されます。

以下、特に博士学生が非常勤講師になることで得られるメリットを5つ紹介します。

  1. 教育者としての実績(教歴)が手に入る
    これは非常勤講師の最大のメリットです。将来、大学のテニュア教員を目指す際、研究業績と並んで「教育歴」は必ず問われます。シラバス作成、授業運営、成績評価といった一連の経験は、必要不可欠な実績となります。
  2. 自分の研究活動と両立しやすい
    非常勤講師には、良くも悪くも自由があります。担当した授業さえ成立させれば、自身の研究活動と両立することができます。
  3. 新たな情報チャネルができる
    特に、自身の所属機関とは別の大学で非常勤講師を務めると、新たな人脈や情報に触れる良い機会となります。新たな研究の視点を得たり、将来の公募情報をいち早くキャッチできたりする可能性があります。
  4. 研究を客観的に見つめ直す機会になる
    専門分野を学生に分かりやすく教えるためには、知識を体系的に整理し直す必要があります。この過程で、自身の研究の意義や面白さを再発見し、新たな研究のアイデアが生まれることもあるでしょう。
  5. 「大学教員」という社会的な肩書きが得られる
    「大学非常勤講師」という肩書きは、社会的には「すごい」と思われ、信用に繋がります。また、他の仕事(書籍の執筆、講演など)に繋がる可能性も秘めています。

冒頭からお伝えしている通り、将来的に教授職を目指す上で、非常勤講師は教育経験を得る重要な選択肢なのです。

大学の非常勤講師が悲惨と言われる理由は?デメリットや注意点5つ

一方、アカデミアの世界では「非常勤講師は悲惨」と言われることがあるのも事実です。

以下、デメリットや注意点を5つ紹介します。

  1. 雇用の不安定さ(雇止め問題)
    非常勤講師の多くは単年度契約であり、翌年度の契約が保証されているわけではありません。また、2013年の労働契約法改正により、「同一の使用者のもとで有期契約が通算5年を超えた場合、労働者の申し込みによって無期雇用に転換できる」という、いわゆる無期転換ルールが導入されました。さらに、大学教員や研究者などについては、無期転換までの期間を原則10年に延長する特例(いわゆる「10年特例」)が設けられています。一方で、こうしたルールの適用を避けるため、大学側が無期転換前に契約を打ち切る、いわゆる「雇止め」が行われるケースも指摘されています。
  2. 給与が発生しない「隠れ労働」が多い
    給与はあくまで授業時間に対して支払われます。しかし、質の高い授業をするためには、シラバス作成、授業準備、レポート・試験の採点、学生からの質問対応など、授業時間外で相当な時間が必要となります。
  3. 研究時間が削られるリスク
    博士学生やポスドクなどの若手研究者にとって、「研究時間を確保すること」が最も重要です。非常勤講師の仕事に追われることで実験・調査・論文執筆などの時間がなくなり、研究業績が伸び悩む…という本末転倒な事態に陥る危険性があります。
  4. 社会保障が手薄
    前述の通り、勤務時間が短いと大学の社会保険や厚生年金に加入できません。国民健康保険料と国民年金保険料を全額自己負担する人も多いです。
  5. 教歴が研究業績を上回ることはない
    常勤教員の採用人事においては、「どれだけ教えたか」よりも「どれだけ優れた研究業績を出したか」の方が重視される傾向にあります。非常勤講師の仕事に注力するあまり、研究がおろそかになれば、かえって常勤への道が遠のいてしまうリスクがあることには注意すべきです。

上記のような注意点を事前に理解し、自分なりに対策を講じながらチャレンジすることが重要です。

【まとめ】大学の非常勤講師は教授職への重要なステップ!

今回の記事では、大学の非常勤講師について、基本情報、実態、注意点などを解説してきました。

非正規雇用という不安定な働き方をネガティブにとらえる人が多く、また、実際に収入面などに課題があるのは事実です。

しかしながら、非常勤講師をアカデミックキャリアにおける重要な経験の機会」と前向きにとらえ、やりがいを感じている研究者もいます。

見方によっては、アカデミックキャリアを歩む上で重要な「教育歴」を得ながら、自分の研究も進められる貴重なポジションなのです。

重要なのは「自分のキャリア戦略の中で、非常勤講師という経験をどう位置づけるか」を主体的に考えることでしょう。

今回の内容があなたのキャリアプランを考える上での一助となれば幸いです。

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