私の就職体験記 #1 『研究力だけでは評価されない──博士就活で直面した現実と転機』

キャリア

今回は、博士課程を経て就職活動を経験された方に、実体験を寄稿いただきました。

研究実績がありながらも就活で苦戦した経験や、民間企業・アカデミア双方での意思決定の過程など、これから就職活動を行う博士学生にとって非常に参考になる内容となっています。

ぜひご自身のキャリアを考える上での一例としてご覧ください。

自己紹介

国立大学の理系大学院に所属しています。博士課程への進学は学部生の頃から意識していたため、修士課程では就職活動を行わず、博士後期課程で初めての就職活動を行いました。今回このような機会をいただきましたので、自分自身の大学院生活と、アカデミアおよび民間企業における就職活動を振り返り、後進へアドバイスを残したいと思います。決して順調だったわけではありませんが、一例として誰かの参考になれば幸いです。まずは私自身の体験を述べ、その後にアドバイスを述べます。

私の就活体験談

修士課程:進学を前提に研究へ集中

自身の専門(バイオイメージング分野)と興味から、生体計測系の研究を卒業後も続けたいと考えていました。私自身にはアカデミアでやっていく自信はなかったので、この段階ではアカデミアに残るという選択肢は考えていませんでした

博士課程1年目:就活はせず論文・学会に専念

まずは就活がどのようなものか知りたかったため、所属大学の就職支援センターを訪れ、何から始めるべきか職員の方に伺いました。このセンターは、大学全体の就職支援センターのため、学部・修士が主な対象で、博士課程に向けて大きく特化したアドバイスというよりは、就活全般としてのコメントをいただきました。まずは卒業を確定させるために論文を書くことを優先し、就活について考えるのはそれからで良いとのことで、このときは特に就職活動は行わず、多くの学会に参加し、論文執筆に専念しました。

博士課程2年目前半:研究環境の変化で停滞

指導教員が異動し、研究室の体制や研究テーマが大きく変わりました。研究に使う手技も新しくなり、実験結果が思うように出ず、博士論文をどのようにまとめるか悩むなど、環境の変化に苦労しました。そのため、就職活動に割く時間はほとんどありませんでした。自身の知り合いで博士卒として民間企業に就職された方にアポイントを取り、Zoomで話を聞く程度のことしか行いませんでした。

また、修士課程時には財団の奨学金と日本学術振興会特別研究員DC1に採択されていました。これらはどちらも倍率が5倍以上でした。また就活開始時点で筆頭著者論文が5本あり、国際学会での賞も取得していました。そのため、博士学生の中では研究業績が多い方だと思い、これまで通り研究を続けていればどこかの企業が採用してくれるだろうと、自分の実力を過信してしまい、就職活動の開始が遅れてしまいました。

博士課程2年目9~11月:初めての就活で苦戦

本格的に民間企業への就職活動を意識し始めました。自身の専門分野と興味から、医療機器メーカーに絞って就活を始めました。ここからSPIの参考書や面接対策本を購入し、まずは問題に慣れることや就活の流れを掴むことから始めました。指導教員が厳しめだったため、こっそり研究室を抜けて、1日の中で時間を決めて就職活動を行いました。いくつかの企業が冬インターンの募集を行っていましたので、応募しました。ESを書いた経験もなく、自分の実力を過信していたため、誰にも添削してもらうことなく提出しましたが、結果は惨敗でした。(筆記試験のみの企業は合格し参加しましたが、研究開発職ではないインターンだったため、研究職志望の自分にとっては大きな学びはありませんでした。)

博士課程2年目12~2月:早期選考で挫折

この時期から医療機器メーカーの早期選考が始まりました。また、共同研究をしている某私立大学の研究室から、助教のポスト(任期5年)が空いているのでぜひ来てくれないか、と声をかけていただいていました。このポストについては3月までは待っていただけるとのことだったため、ひとまず民間就活を行い、うまくいかなかったら助教になろうという甘い考え方をしていました。早期選考で受けたのは、医療機器メーカーA社(博士早期選考)とB社(インターン経由でもらった早期選考)でした。ここからESは他人の目を通すようにしました。

A社の一次面接は、人生で初めての民間企業の面接でしたが、人事面接ということもあり無事突破しました。二次面接は技術面接で、研究に関するプレゼンを行い、その内容について質疑応答を受けるというものでした。しかし、いくつかの質問に曖昧な返答をしてしまい、そのまま不採用となってしまいました

B社は第一志望でしたが、ES提出前にSPI試験があり受験しました。B社とはこれまでに繋がりがあり、インターンとは別に本社へ招待していただいたこともあったため、問題なく選考が進むと思っていました。しかしSPI試験で不採用となってしまいました。正直、絶対に行ける自信があったため、ひどく落ち込みました。さらに追い打ちをかけるように、某私立大学の助教の話も諸事情により白紙に戻ってしまいました。一週間ほど立ち直ることができず、研究室にも行けませんでした。

博士課程2年目2~3月:立て直しと自己分析

なんとか立ち直り、通常選考で医療機器メーカーC社、D社にESを提出しました。前回の反省を活かし、自己分析に多くの時間を費やし、自分自身の興味を洗い出すところから再度始めました。結果としてC社は書類選考で不採用でした。

D社は書類選考を通過し、一次面接も無事通過し、面接後のフィードバックでは非常に高い評価をいただけました。次が最終面接だったため、就活中の同期や、すでに就活を終えた先輩にお願いし、面接練習に付き合ってもらいました。D社の最終面接は技術面接で、A社と同様にプレゼンの後に質疑応答がある形式でした。面接官は非常に親切で感触も悪くなく、「あなたが入ったらきっと楽しい」と言っていただけましたが、結果はすぐには来ず、補欠枠に入れられました。(面接から3ヶ月後まで待たされ、不採用)

博士課程3年目4~6月:内定獲得と最終的な進路決定

ここからは焦りもあり、医療機器メーカーに限らず、自身の専門性で採用してもらえそうな企業にとにかく応募しました。同時に、アカデミアにおける就職活動も開始しました

民間企業では、家電メーカーE社とF社、計測機器メーカーG社、H社、I社、そして最後の望みをかけた医療機器メーカーJ社とK社を受けました。しかし、自身の思いは医療機器メーカーに強く向いていたため、志望動機をうまく書くことができず、家電・計測機器メーカーであるE社、F社、G社、H社は書類選考で不採用となってしまいました。

I社は自身の専門分野と完全に合致しており、書類選考を通過し、2度の面接でも高く評価していただき、初めて内定をいただくことができました。しかし、自分自身には医療機器メーカーへの未練があったこと、またI社の企業規模がそれほど大きくなかったため、自身の進路として不安を感じてしまい、J社とK社の就職活動は引き続き続けました。J社は書類選考を通過しました。面接はこれまでの企業と同様に人事による一次面接が行われるものと思い、その準備を進めていました。しかし、いざ面接が始まると博士課程の応募者ということで役員面接だったようで、準備不足のまま臨んでしまい、不採用となりました

医療機器メーカーもそろそろ諦めるべきかと迷っていたところ、たまたま大学の支援センターでK社の紹介を受けました。支援センター経由で人事担当者に連絡を取ってもらったところ、現在も採用活動を行っているとのことでした。その後、書類選考、一次面接、二次面接ともにとんとん拍子で進みました。最終面接でも「あなたのような優秀な方がうちに来てくれて退屈ではないか心配です」と言っていただくほど高く評価していただき、無事に内定をいただくことができました。K社については事前準備をほとんどしておらず、取り繕わない自分自身を純粋に評価していただけたと感じました。この会社であればやっていけると思えたため、ここで民間企業の就職活動を終了しました。

一方、アカデミアにおける就職活動では、国立大学Aの特任助教(任期1年)と国立大学Bの助教(任期5年)を検討していました。国立大学Aについては書類選考と面接を通過し、実際に大学へ赴いてプレゼンをしてほしいという段階まで進みました。そのような中で、国立大学Cの教授から「あなたの専門分野にぴったりの助教公募(任期なし)があるのでぜひ受けてほしい。あなたの好きな研究を自由にしてください」と声をかけていただきました。最終的には、大学Cの教授が人として最も尊敬できると感じたこと、そしてこの環境で研究をしたいという思いから、大学Cの助教を選択しました

就活する上でのアドバイス

とにかく早く準備を進めよう

近年、ニュースなどで博士人材を求める企業が増えていると聞くことも多いと思います。特に若者不足が進行している中で、博士号を持つ貴重な人材を確保したいと考える企業も増えており、一般的には売り手市場と言われつつあります。しかし、これは大企業、特に誰もが名前を聞いたことのあるような企業には必ずしも当てはまりません。そのような企業では人材不足になることは少なく、常に採用人数の10倍以上の応募者が集まります。実際、私が内定をいただいた医療機器メーカーでも倍率は10倍程度でした。そのため、博士採用を行っている大企業では、単なる「博士学生」ではなく、「優秀な博士学生」が求められています。

当然ながら、研究業績や能力が特に目立たない博士学生と優秀な修士・学部生を比較した場合、後者が採用されます。このような世論に惑わされず、早い段階から就職活動を開始することを強くお勧めします。特に、自身が興味のある業界をいくつかピックアップし、その業界ではインターンや早期選考が主にどの時期に行われているのかを調べておくと良いでしょう。博士人材は通年採用を行っている企業もあるため、その点も含めて詳細に調べておくことが重要です。そして、そのスケジュールから逆算し、少なくとも1年前を目処に準備を始めておくと安心です。この段階から筆記試験対策を始めておくと、より余裕を持って就職活動を進めることができます。

まずは自己分析から

就活を始める前に自己分析を行うと良いです。自分自身を高校時代から振り返り、何を、どんな気持ちで行なってきたのか全て紙に書き出しましょう。自分のことなんて自分が一番知っている、自己分析など行う必要はない、と思いがちですが、意外と全然知りません。ここでしっかりと準備しておくと、志望動機への深掘りへ対策ができます。たとえ想定質問ではないことが質問されてもある程度対策はできるようになると思います。また人生の中で自分自身を振り返る機会はほとんどないと思いますので、これからどんな人になりたいのかが見え、就活以外の決断に大きく役立ちます

複数の企業を経験しよう

特に就職活動を通じて感じたことは、受験や研究と就活はまったく異なるということです。

もちろん博士課程で研究を行うことは非常に重要ですが、博士学生は誰しもが研究を行っています。そのため、どれだけ素晴らしい研究をしていても、それが企業の利益や面接官の専門分野に直接結びつかない限り、それだけで採用されるとは限りません。企業が見ているのは「どんな知識や技術を持っているか」だけではありません。むしろ、その技術をどのように身につけたのか、なぜその技術が必要になったのか、困難に直面したときにどのように対処したのか、といった研究のプロセスが重要になります。

例えば、学振の申請書や論文をすべて指導教員が書き、本人は運良く通っただけで研究力が十分に身についていないような学生は、企業からは必要とされません。たとえ業績が多くなくても、ひたむきに研究に取り組んできた人材の方が評価されます。企業が興味を持っているのは、あなたの「業績」そのものではなく、「あなたがどのような人なのか」という点です。そのため、学会のような専門的な質問が多くされることはむしろ少なく、あなた自身がどのように研究に向き合ってきたのかを語れるようにしておくことが重要だと感じました。

こうした内容を面接でうまく伝えるには、ある程度の慣れが必要です。そのため、早期選考や本選考に入る前に、夏や冬のインターンに応募し、筆記試験やES、面接の練習をしておくと良いと思います。自分が興味のある企業であればもちろん理想的ですが、練習と割り切って複数の業界や企業に応募してみるのも良いでしょう。インターンに参加して企業の雰囲気を知ることも大切ですが、それ以上に選考そのものに慣れることが重要だと感じました。インターンの合否についてはあまり気にする必要はないと思います。

また、学振や奨学金に採択された、論文が多く通っているからESを書くのが上手い、学会で発表賞を取っているから面接が上手い、というわけでは必ずしもありません。そのため、最初のうちは就活を終えたばかりの後輩学生や大学の支援室を頼り、ESの添削や面接練習をしてもらうと良いと思います(よほど優秀な学生でない限り、「先輩だから」「業績があるから必要ない」といった無駄なプライドは捨てた方が良いでしょう)。特に業界によって志望動機の書き分けは難しいと感じました。そのため、早い段階から自己分析と企業分析を行い、自分の経験と企業のどの部分がマッチするのかを整理しておくと良いと思います。ほとんどの企業では志望動機の深掘り以外は似たような質問が多いため、志望動機は特に丁寧に準備しておくことが重要だと感じました。

ES・面接では一貫性を持たせよう

これは博士に限った話ではありませんが、書類選考からすべての面接にかけて、一貫性を持たせることが重要だと思います。特に博士課程の場合、「なぜ博士に進学したのか」、そして「その進学理由が企業を志望する理由とどのように結びつくのか」を聞かれることが多いと感じました。そのため、「なぜ博士課程に進学したのか」「なぜその専門分野を選んだのか」「なぜその企業を志望しているのか」といった点を、一つの軸で結びつけて説明できるようにしておくと良いと思います。

また、「なぜアカデミアに残らないのか」という質問も、私はすべての企業で聞かれました。そのため、この点についてもあらかじめ自分なりの考えを整理しておくと良いと思います。例えば「社会実装を早めたいから」といった理由はよく聞かれる回答であり、それだけではやや一般的な印象になってしまいます。博士進学時の動機や研究テーマへの関心と結びつけて説明できると、より説得力のある志望理由になると思います。

使ったツール

  • ワンキャリア(数年分のESや面接体験談が載っています。これで聞かれそうな質問をピックアップし、面接対策を行なっていました)
  • JREC-IN Portal (アカデミア就活情報は全てここにあります。定期的に見ることをお勧めします)
  • 博士情報エンジンwakate (ESの書き方講座や早期選考の紹介などを行っていただきました)

アカデミア就活について

特にアカデミアは特殊で、分野によって人材不足の状況には大きな差があります。多くの分野では博士号の取得が最低条件となるため、博士取得者が少ない専門分野では人材不足が顕著です。私自身は比較的ニッチな分野で研究を行っていたため、知り合いの教員経由で「助教の公募が出る」「紹介できる」といった話が3〜4回ほど回ってきていました。そのため、博士取得者が少ない分野で、かつ任期付きのポストであれば、比較的難易度は高くなく、教員の紹介をきっかけに採用が決まることも多いと感じました。任期付きのポストの場合、大型の研究費を獲得した教員の裁量で雇用できるケースも多く、それも一因だと思います。

一方で、任期なしの大学が募集する公募は教員側が「いつ出す」と決められるものではなく、タイミングに左右される部分が大きく、運の要素も強いと感じました。そのため、いくつかの任期付きポストを経験しながら業績を積み、たまたま知り合いの教員が公募を出したタイミングで応募し採用される、という流れが多いのではないかと思います。

とにかく分野で顔を売る

早い段階から大学教員を目指す場合、自分の存在を周囲に知ってもらうことが大切だと思います。学部生の段階であれば、有名な教授がいる研究室に所属し、多くの学会発表や懇親会に参加して、さまざまな大学の先生と知り合っておくと良いでしょう。もちろん、自分の研究室でしっかり研究に取り組み、指導教員に良い印象を持ってもらうことも重要です。

また、共同研究を通じて知り合いになるケースも多いため、共同研究の機会があった場合には積極的に取り組んでおくと良いと思います。特に国際学会には著名な研究者が多く参加しますし、参加できる学生も限られるため、多くの研究者と直接話すことができる貴重な機会になります。

【まとめ】体験から見えた「博士就活の現実」

本記事の体験から見えてくるのは、研究力と就職活動は別物であるという現実です。

論文数や受賞歴といった実績があっても、それだけで選考を突破できるわけではありません。企業が見ているのは、「どのような成果を出したか」だけでなく、どのように考え、行動し、困難を乗り越えてきたのかというプロセスです。

実際に本記事の寄稿者も、研究実績に自信があった一方で、ESやSPI、面接対策の遅れによって苦戦を経験しています。その後、自己分析や選考対策にしっかり向き合うことで、内定獲得へとつながりました。

だからこそ重要なのは、早い段階から準備を始めること、そして自分自身を言語化できる状態にしておくことです。

博士の就活は決して特別扱いされるものではありません。「博士であること」に安心するのではなく、一人の応募者としてどう評価されるかを意識して準備を進めていくことが、納得のいく進路選択につながります。

博士情報エンジンwakateでは、ES添削や面接対策など博士に特化したサポートも行っています。ぜひ活用してみてください。

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