博士課程に進学すると、「就職できない」「非正規雇用で不安定になる」といった声を聞くことがあるのではないでしょうか。
- 博士が就職する割合とは?
- 博士は就職できない、厳しい…その理由は?
- 博士の今後の就活状況、展望は?
このような情報を、記事にまとめました。
結論から言うと、博士課程修了直後に就職できた人の割合は69.0%(正規雇用54.8%、非正規雇用14.2%)で、学部卒・修士了と比べて10ポイントほど低くなっています。
大学教授や国研の研究員などのポストには限りがありますし、学位取得時に30歳手前になっているという年齢面や、専門スキルを活かす場所がないといった理由で、博士人材の採用に前向きでない企業があるのも事実。
しかし、近年、博士号取得者を求める声は強くなってきています。
博士限定の求人ではエントリーからたった1か月で内定が出るケースもあり、また、能力主義で採用する企業や先端技術を利用した事業に取り組む企業での採用が増えてきています。
この記事では、就職難と言われる博士の就職率の現状と背景、そして今後の展望について解説します。
博士の就職率が低いって本当?…正規雇用の割合
実際のところ、博士の就職率は本当に悪いのでしょうか?
文部科学省が公表している「令和元年度学校基本調査」によると、博士課程修了者に占める就職者の割合は非正規雇用を含めて69.0%です。
- 正規雇用:54.8%
- 非正規雇用:14.2%
一方で、就職率は上昇傾向にあり、令和2年度に過去最高を記録し、現在も同水準を維持しています。
正規雇用の割合が低く、収入が不安定な「非正規雇用者」が多いように見えますが、この中には大学や研究機関の「ポスドク」も含まれており、将来的には正規ポストに就く可能性も十分にあります。
ちなみに主な就職先は、大学・公的研究機関・民間企業・官公庁・医療従事者(保健分野)となっていますが、近年は、博士号取得者が起業して大成功を収めるケースも目立っています。
学部卒・修士了と比較すると…
博士了の就職率を、学部卒・修士了と比較してみましょう。
まず、同じ大学院卒である修士課程修了者のデータを見ると、就職率は78.6%です。
- 正規雇用:75.9%
- 非正規雇用:2.7%
続いて、大学の学部卒ですが、就職率は78.0%となっています。
- 正規雇用:75.3%
- 非正規雇用:2.7%
博士卒の就職率69.0%と比較すると、10ポイント近い差があり、特に正規雇用の割合には大きな差があります。
このようなデータから、「博士は就職できない」と言われるのですが、なぜ博士課程修了者の就職率は低いのでしょうか?
博士は就職できない、厳しい…理由はなぜ?
博士課程修了者は「就職できない」「厳しい」「難しい」と言われることがあります。上記のデータを見ると、確かに学部卒・修士了よりも就職率は低いようです。
それではなぜ、「知のプロフェッショナル」と言える博士の就職率が低いのでしょうか?
理由・背景は大きく、3つありそうです。
- 90年代以降、博士が急増した
- アカデミアのポストが増えていない
- 20代後半という年齢の壁
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
90年代以降、博士が急増した
1991年、当時の文部省は「10年間で大学院生を2倍に増やす」という目標を打ち出しました。いわゆる大学院重点化政策です。バブル崩壊のタイミングで、国の将来性を研究力に求め、研究者を増やそうとする狙いがありました。
実際に、全国の大学院で定員が拡充され、文部省の目標は達成されました。現在では毎年、約1万5000人の博士が生まれています。(1990年は6000人弱でした)
さて、この後の話に繋がりますが、博士の人数が増えたのはいいものの、受け入れ先は十分に整備されませんでした。そのため、「博士の就職難」という問題が出てきたのです。
アカデミアのポストが増えていない
博士の代表的な就職先と言えば、大学などの研究・教育機関です。
博士課程修了後もアカデミアの世界に残り、研究活動を続けたい人は多いのですが、大学の正規ポストは増えませんでした。ポスドクや任期付教員を繰り返し、なかなか正規ポストに就けない研究者が大量に発生する事態となりました。
平成30年度のデータでは、教員職に就いた博士の割合は25.0%。この中には、任期付きの助教や非常勤講師といった非正規雇用も含まれています。
27歳以上という年齢の壁
博士課程を修了する年齢は、基本的には27歳以上。
日本企業ではいまだに年功序列制度が残っていることも多く、「年齢は高いけれど新卒で、社会人経験がない」という博士の採用に消極的な意見があることも事実。
少し古いデータですが、2016年度の「民間企業の研究活動に関する調査」によると、2015年に博士を採用した民間企業は6.2%。
20代前半の学部卒や修士了を採用し、社内でキャリアを積んだ方が「使いやすい」という側面はあるのかもしれません…。
しかし、逆に言うと6.2%の企業は博士号取得者を採用しています。学部卒・修士了と比較すると、博士号取得者は絶対数が圧倒的に少ないため、「即戦力を求める企業には、低倍率で入れるチャンスがある」と言えるかもしれません。
博士の就職…展望は明るい?
近年、民間企業でも博士の採用を積極的に行うケースが増えています。いくつか、具体例を紹介します。
総合商社の三井物産は2015年に、博士課程の新卒者に限定した採用を行い、話題となりました。大々的な広報は行われていませんが、その後もコンスタントに博士学生を採用しているようです。
また、ITサービスのヤフーでは、新卒一括採用を廃止し、通年でのキャリア採用に移行。博士号取得者やポスドクも応募しやすい土壌が作られています。(参考:Yahoo!採用活動の現場から)
野村ホールディングスでは、「野村パスポート」というユニークな採用制度を実施。博士学生限定の採用制度で、面接やワークショップなどによる選考の結果「野村パスポート」(≒内定)が発行されると、博士号が取得できるまで入社時期を先延ばしすることが可能となります。研究と就活を分離して考えることができる、画期的な採用手法です。(参考:野村パスポートとは)
博士学生への特別なインターンシップを実施しているのはサイバーエージェント。博士課程に在学中の学生のみを対象とする、2ヶ月間の「リサーチインターンシップ」では、月額50万円もの高額報酬を貰いながら実際の業務にも携われます。(参考:インターネット産業が求める博士人材の即戦力としての可能性)
製薬業界では、医学・薬学・生物学などバイオ系博士人材(ポスドク含む)のニーズが高まっています。化学メーカーなども含め、一部の企業が「博士早期選考」を実施し、エントリーからたった1か月で内定をもらうケースも増えています。(参考:【早期選考アリ】博士課程の就活はいつから?スケジュールと事前準備)
待遇面では、DMG森精機が2023年4月より新卒初任給を大幅に引き上げしました。特に博士課程卒は36万円から47万円へ約30%上がり、初任年収は682万5000円になる見込みで、高度な専門性を持った博士を積極的に採用したい方針がうかがえます。(参考:DMG森精機プレスリリース)
全体の傾向としても、一部のベンチャー企業や先進的な企業において、年功序列制度を廃止する傾向が見られます。成果主義、実力主義の流れを「追い風」と捉えることで、博士の就職チャンスは広がることでしょう。また、起業して大成功を収める博士も増えています。
そもそも、海外企業では経営者が博士号取得者であることも珍しくありません。特に技術系の企業では多くの経営者が博士号を保持しています。グローバル化の中で、日本企業でも今後ますます博士号の価値が評価されていくことでしょう。
【まとめ】博士の就職状況は厳しい?チャンスは増えている!
今回の記事では、博士学生の就職率と、「厳しい」と言われる理由、そして将来の展望について解説しました。
就職率が69.0%というデータもありますが、近年は博士課程修了者に限定した採用が見られるなど、民間企業の姿勢に変化が見られます。博士了の初任給大幅引き上げや、採用環境の改善など、高度な専門性を持った博士への期待がうかがえます。
ポスドクとして研究を続けるのも、研究者としてレベルアップする一つの手段ですが、収入面や雇用の安定性の面で不安な点があるのも事実です。
博士号取得者が即戦力として活躍できる企業は、少なくありません。なるべく幅広い業界、進路先に目を向け、自身のキャリアを長期的に考えることが重要です。
「博士情報エンジンwakate」では、博士学生の就職活動を専門的に支援しています。いつ何をやるべきか、どのようなアピールが必要かなど、セミナー・ワークショップでお伝えしていますので、参加してみましょう。
コメント