実は、ネット上では「博士論文 ひどい」という検索をする人がいます。
どのような人が、どのような意図で検索しているのかまでは分からないのですが…いくつか参考となりそうな情報を書いていきます。
想定される内容としては、以下3つでしょうか。
- 「ひどい博士論文」は存在するのか?
- 博士論文を仕上げるまでの過程がひどい?
- 審査する側やメディアなどが「この博士論文がひどい…」というような文脈で使っている?
3つ目の内容は省略するとして、今回は、1つ目と2つ目のトピックについて解説していきたいと思います。
「ひどい博士論文」は存在するのか?
結論から言うと、「ひどい博士論文」というものはほとんど存在しません。(そのはずです…)
もちろん、「自分の博士論文は恥ずかしくて読み返せない」と感じている博士号取得者もいますが、現行制度において、博士論文として認められるまでには数多くの困難なステップを乗り越える必要があり、ひどい博士論文が生まれにくい仕組みになっています。
- 新規性のある研究テーマを設定し、実験や考察を重ねる
- 外部ジャーナルへ論文投稿し、掲載される
- 教授陣による厳しい予備審査、本審査を通過する
当然ながら、卒業論文や修士論文とは比較にならないほどのクオリティが求められています。
また、学内だけで審査するのではなく、権威ある外部ジャーナルや、学外からの審査委員などの視点も踏まえて、客観的に博士論文の審査が行われます。
結果として、「ひどい博士論文」というものは生まれないようなルールになっているのです。
ちなみに、博士号の希少性については「博士号の難易度は?その難しさとすごさ…日本に何人【0.4%の人材】」の記事で解説しております。
博士論文は国立国会図書館に保管される
博士の学位が授与されると、その博士論文は国立国会図書館に送付・保管されることが決められています。
また、文部科学省の学位規則には、以下のような記載があります。
第八条 大学及び独立行政法人大学評価・学位授与機構は、博士の学位を授与したときは、当該博士の学位を授与した日から三月以内に、当該博士の学位の授与に係る論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨を公表するものとする。
第九条 博士の学位を授与された者は、当該学位を授与された日から一年以内に、その論文を印刷公表するものとする。ただし、当該学位を授与される前に既に印刷公表したときは、この限りでない。
国会図書館に保管される論文ですから、それ相応のレベルが求められていることは言うまでもありません。
ちなみに、国立国会図書館の蔵書に占める博士論文の割合は1.5%ですが、来館者の閲覧申し込みの6%が博士論文となっており、閲覧の需要は高いようです。
博士論文作成の過程で「ひどい」という声が出る可能性
続いて、博士論文を完成させるまでの過程で、博士学生側が「ひどい」と感じる場面を想定してみます。
大きく以下の3点で「博士論文、ひどい」と感じる可能性があるかもしれません。
- 博士論文を仕上げるまでのスケジュール、時間管理がきつい
- ジャーナルへの論文投稿が何度もリジェクトされる
- 予備審査や公聴会での指摘が厳しすぎる
順番に見ていきましょう。
博士論文は厳しいスケジュール&自己管理との戦い
博士課程では様々なタスクが次から次へと降りかかってくるため、スケジュール管理が成功の鍵となります。
締め切りに間に合わせるためには、計画的に行動し、効果的に時間を使うことが必要です。
こちらの記事でも触れていますが、博士学生の平均的な研究時間は1日10時間を超えています。
自分の博士論文を仕上げなければならない中で、理不尽ともいえる緊急の案件が降りかかってくるタイミングもあるでしょう…。このような追い込まれた場面では、博士論文完成までの過程が「ひどい、辛い」と感じることもありそうです。
博士課程で論文が何度もリジェクトされる…
博士学生が直面する苦い経験のひとつに、外部ジャーナルへ論文を投稿したものの、何度もリジェクトされる…というものがあります。
投稿論文がリジェクトされることは、自分の研究が否定されたように感じることもあります。
また、場合によっては、ジャーナルの見解が前回と異なっていたり、審査担当者に納得のいかないひどい理由で掲載を認めてもらえない、というケースもあったりします…。
長い審査期間を経てから納得のいかないリジェクトを受けると、「ひどい」という感想を持つ人もいるかもしれません。
しかし、その論文が「満場一致で完璧ではなかった」というのは事実です。これを「伸びしろ」と捉えましょう。リジェクトされた理由を正確に把握し、前向きに分析し、論文を改善することは、研究者として大きな成長に繋がることでしょう。
予備審査や公聴会での指摘が厳しすぎる…
前述の通り、博士論文の審査プロセスは厳しいです。
特に博士論文の予備審査・本審査(公聴会)と呼ばれる審査会では、容赦ない指摘が入ります。
公衆の面前で厳しい意見を四方八方から受けると、「ひどい」「厳しすぎる」と感じることもあるようです。
中には「自分は研究者失格なのか…」と感じてしまう博士学生もいるほど…。
しかし、一人前の研究者として学位取得するためには、「ストレスに耐えること」「指摘を前向きに捉えること」も重要な素養と言えるかもしれません。審査委員は、博士学生を一人前の研究者とみなして、高い品質・独自性・学術的価値を期待しているのです。
厳しい指摘に負けることなく、自信を持って自分の研究をプレゼンできるようにしましょう。
(参考記事)
▶博士論文の予備審査は厳しい…不合格/落ちる可能性もあるので事前対策を
▶博士の公聴会とは?質問例と対策!不合格/失敗/落ちることが心配な人へ
以上、「博士論文、ひどい」というトピックについて、2つの側面から解説しました。
博士論文完成までのストレス軽減策4つ【ひどい/つらいと感じた時】
博士課程ではストレスがつきもので、時には「ひどい、つらい」と感じることもあるでしょう。
自分なりのストレス解消法を見つけることが一番大事ですが、ヒントになりそうな内容を4つ紹介させていただきます。
①ワークライフバランスの実現
博士課程は多忙を極める時期がありますが、「中長期的にワークライフバランスを維持すること」が成功に繋がります。
趣味や運動の時間をとり、家族や友人との時間も大切にしましょう。研究に没頭する時間も必要ですが、毎日朝から晩まで研究室にこもっていると、ネガティブな感情まで心の中にこもってきてしまいます。
ストレス解消や休息の時間も大切にしてバランスを取りながら研究することが、結果的に生産性を高めてくれるはずです!
②積極的なコミュニケーション
博士課程で研究を進める中で、孤独感を感じることもあります。積極的に周囲のサポートを活用しましょう。
指導教員や先輩・後輩とのコミュニケーションがきっかけで研究が進展することは少なくありません。また、学術コミュニティや博士向けセミナーなどの機会を積極的に利用するのも価値がありますし、ネット上での交流からヒントを得ることもあるかもしれません。
③初心を思い出す。将来をイメージする。
博士論文の完成までに「ひどい、きつい」と感じた時は、ぜひ初心を思い出してみましょう。
なぜ博士課程に進学したのか、どのような目標があったのか。
そして自分が学位を取得することで、どれほど喜び・誇りの感情で満たされるか!また、博士としてのキャリアアップもモチベーションのひとつになるでしょう。
定期的に博士課程に進学したときの初心を思い返し、将来の明るい展望を思い描いてみると高いモチベーションを維持できるかもしれません!
④言語化するトレーニングを積む
4つ目のストレス軽減策は、「言語化スキルを高めること」です。
自分が何について「ひどい」「つらい」「苦しい」とストレスを感じているのか言語化することで。解決策が見えてくることがあります。
例えば、博士論文予備審査にて厳しい指摘をたくさん受けたら、落ち込んでしまうのも当然です。ここで「自分はなぜ落ち込んでいるのか」「本質的には何を指摘されたのか」を言語化してみましょう。
きっと、「自分自身が批判されたのではなく、研究内容について指摘された」という事実に気が付くでしょう。そして気付くことができたら、精神的に前向きになれますし、さらに、周りから具体的なサポートを受けることもできるはずです!
研究者は総じて言語化スキルが高いです。自分への批判なのか、研究内容への批判なのか、切り分けて捉えるトレーニングをしておくことで、ストレスを大きく軽減できます!
博士号という貴重な肩書きと、トランスファラブルスキル
博士課程を「ひどい/つらい」と感じるタイミングは何度もあるかもしれません。
しかし、博士号取得には「貴重な肩書き」と「かけがえのないスキル」の両方を得ることができるメリットがあります!
「博士号の難易度は?その難しさとすごさ…日本に何人」という記事で解説していますが、博士号を持っている人は日本人の約0.4%です。世界で通用する貴重な肩書きを得ることで、一人前の研究者として評価されることでしょう。
また、博士課程を最後までやりぬくことで、どのようなシーンでも活かせるトランスファラブルなスキルを手に入れることができます。先ほどの言語化スキルも含まれますが、研究者として得た能力は、生涯にわたって自分を支えてくれることでしょう。
博士課程で「着実に自分は成長している」という感覚を持ち、少しでも前向きに活動できるといいですよね!
まとめ
今回の記事では、「博士論文、ひどい」というテーマから想定される2つの内容について解説してきました。
- 「ひどい博士論文」では基本的に学位取得できないルールになっている
- 博士論文完成までのステップをひどいと感じることがあるが、自分なりのストレス対処法を確立しておく
博士課程では、うまくいかないことが数多く出てくるものです…。
ありきたりな結論のようにはなりますが、それらの試練を乗り越えることで、もしくはストレスさえも自己管理できるようになることで、プロの研究者としての資質が身に付いていきます。
未来予測のつかないVUCA時代の今、博士のようなトランスファラブルスキルを持つ人材が求められています。博士として活躍する自分の未来を思い描きながら、粘り強く取り組んでいきましょう!
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