学会でポスターを用いる時は、研究内容だけでなく、デザインや視認性も発表の成功を左右します。
特にフォントの選び方や文字サイズ、全体のデザインは、情報を効果的に伝えるために重要ですが、その一方、ある程度の知識や経験がないと「ビギナー感」が出てしまいます…。
今回の記事では、学会ポスターを作成する際のフォントの選び方、適切な文字サイズやレイアウト等、成功するポスターデザインの基礎的なポイントについて解説します。
なお、学会だけでなく、大判ポスターを使う発表会・交流会等でも活用できる内容ですが、記事内では便宜上「学会ポスター」と呼ぶこととします。
学会ポスターの一般的なサイズは?
ポスターのサイズは、学会や交流会の指定に従う必要があります。
日本の学会では、A0サイズ(841mm×1189mm)が最も一般的でしょう。
(※語呂合わせで”いい役欲しい”と覚えている人もいるようです。)
会場に「900mm×1,800mm」程度のパネルが用意されており、そこにA0ポスターを貼る形式です。なお、学会のポスター発表に向けた準備については「【学会ポスター発表】初めてだと人が来ない?当日の流れを紹介」の記事でも紹介しています。
ちなみに、海外の学会では、1200mm×2400mmなど、より大きなサイズが指定されることもあります。
学会ポスターの文字サイズの決め方は?
学会ポスターでは、1~2m程度離れた場所からでも読める文字サイズが適切だと言われます。
一般的な基準として、以下の文字サイズが推奨されます。
要素 | サイズ |
---|---|
タイトル | 70〜90pt |
見出し | 60〜70pt |
本文 | 32〜40pt |
氏名・所属 | 48〜54pt |
文字サイズは、ポスター全体のレイアウトや文字数によっても変わりますが、読みやすさを最優先に設定することが重要です。文字が小さいと研究内容をダイレクトに伝えにくくなり、聴衆の注意を引くことができません。
ちなみに、このブログでポスター本文の文字サイズ「32pt」を表現すると、以下の通りです。
・学会ポスターの本文は32pt以上が見やすい
学会ポスターのフォント選択は?
学会発表ポスターに適したフォントとして、一般的には、視認性が高いゴシック体が推奨されます。明朝体は視認性が低くなるため避けましょう。
特に「メイリオ」、「MSゴシック」、「游ゴシック」などがよく使用されます。これらのフォントは、遠くからでも読みやすく、学術的な雰囲気を保つことができます。
(※Macでは「ヒラギノ角ゴシック」、「Helvetica Neue」などもおすすめです。)
なお、本ブログでは「Helvetica」というフォントを使用しており、学会ポスターに利用できる汎用性があります。
学会ポスターの効果的なデザイン・レイアウトとは?
学会ポスターは、情報を詰め込みすぎず、主要なメッセージを簡潔にまとめることが求められます。
シンプルで分かりやすいデザインとレイアウトが重要で、見出しや箇条書きを使用し、参加者が研究概要を迅速に把握できるようにしましょう。
また、情報の重要度に応じてフォントサイズや色を変えることで、参加者の視線を誘導し、重要なポイントを強調します。
色使いについては白地に黒文字がオーソドックスですが、見出しや重要な部分にはアクセントカラーでメリハリをつけることも効果的です。
学会ポスターで有効なレイアウト5種類
学会のポスターでは、1枚の用紙に研究概要を凝縮する必要があります。
特にA0ポスターの場合、その1枚に記載する情報量も多くなるため、見やすさが内容の分かりやすさにも繋がります。よって、聴衆がポスターを見る際の視線の動きに注目してレイアウトを工夫するといいでしょう。
ここでは、代表的な5つのレイアウトを紹介します。パッと見て構成を把握しやすければ、発表内容に注目してくれる可能性も高まります。
Z型レイアウト:ユーザーの視線が「Z」の形を描くように配置されたデザインです。左上から始まり、水平に右へ移動した後、左下へ斜めに下がり、最後に右下へと進みます。WEBサイト等で一般的に使われており、初見で全体を把握しやすいのが特徴です。学会のような情報量の多いポスターでは、次のF型が一般的になります。
F型レイアウト:F型レイアウトは、左上からスタートし、右へ移動した後、再び左側に戻りながら順番に下へ進む形です。このパターンは、テキストが多い場合や情報量が豊富なページで効果的です。この「博士情報エンジンnote」も、F型レイアウトになっています。
逆N型レイアウト:逆N型レイアウトは、ポスターを縦に二分割させ、左上からスタートし、左下へ移動した後、右上に進み、右下へと進みます。テキストが横幅いっぱいに並ぶことが無いため、情報の強弱をつけやすくなります。特に、大きなグラフや表などのデータを掲載したり、発表内容で一貫した順序(ストーリー)を伝えたりするのに効果的です。パッと見た時に読む順番が分かりにくくなることがあるため、中心線を目立たせたり、読む順番に数字を入れたりすると良いでしょう。
グリッド型レイアウト: グリッド型レイアウトとは、ポスター全体を水平線と垂直線で分割し、格子(グリッド)を組み合わせて並べる手法のことを言います。雑誌やWEBサイトで用いられることが多く、余白を有効活用することで、視認性を高め、オシャレな印象を与えることもできます。ポスター全体に統一感が生まれますが、掲載できる情報量が比較的少なくなるのがデメリットです。
スライド配置型レイアウト: スライドを作成して、それを並べるようなレイアウトです。各スライドには特定のテーマやメッセージがあり、聴衆が順番に内容を追っていきやすいレイアウトです。情報をシンプルにわかりやすく提示できますが、パワーポイントを並べただけのような印象にならないよう注意も必要です。
その他、学会ポスターデザインで留意すべき点
その他、学会のポスターデザインで注意すべきポイントを書いておきます。
- 背景色は白または淡い色、文字は濃い色を選び、背景と文字との対比(コントラスト)を確保する
- 色による強調は1〜2色に限定する(強調色が多いと、色ごとの重要度が分からず逆効果)
- 下線や斜体は控えめに使用し、過度の装飾を避ける
- 一行の文字数を多くしすぎず箇条書きや段組みを使う
- 十分な余白を取り、デザインにメリハリをつける
これらの要素に気を付けるだけでも、注目されやすさ、伝わりやすさが向上するでしょう。
QRコードも活用しよう
ポスターの右下等に、自分のプロフィールページに飛ぶ「QRコード」を設置するのも有効です。LinledInやX等、研究者として情報発信しているサイトへのリンクを掲載します。
例えば、研究内容に興味はあったけれど時間の都合で発表を聴けなかった人などが、セッション後にQRコードから各種SNSを見てくれる可能性があります。せっかくポスターを作るなら、少しでも人脈が広がるチャンスを作り出しましょう。
ただし、多くの学会ではポスターのカメラ撮影を禁止しています。QRコードの掲載によってトラブルが起きないよう、学会のルールを確認したり、ポスターに注意書きを記載したり、注意を払うことも忘れないようにしましょう。
なお、QRコードですが、活用している博士学生はそれほど多くありません。差別化要因にもなるため、ぜひ取り入れてみましょう。
学会ポスター作成時のツールは?
学会ポスター作成には、以下のツールが使用されます。
- PowerPoint: スライドのサイズを自由に設定でき、最大142.22cmまで対応可能です。A0サイズの「84.1×118.9cm」を設定してそのまま使うことができます。
- Keynote、Pages:Apple社が開発したMac標準のプレゼンアプリ「Keynote」でポスターを作れます。Pagesは、MacにおいてWordに相当するソフトですが、ポスター作りに使う人もいます。
- Adobe Illustrator: プロフェッショナルなデザインに適しており、複雑なグラフィックを扱う際に優れています。
- Canva: デザイン初心者でも使いやすい無料のオンラインツールで、多数のテンプレートが利用可能です。
いずれのツールを使うにしても、自分で0からデザインを作り上げるのは手間と時間がかかります。
テンプレートを用いたり、先輩のポスターを土台にしたりするのが良いでしょう。
【まとめ】学会ポスターは素晴らしい研究内容をわかりやすく伝える手段
今回の記事では、学会や発表会・交流会等で大判ポスターで発表する際の、具体的な作り方のコツや、注意点について解説しました。
記事全体を通してポスターの具体的な「作り方」を紹介してきましたが、最も重要なのは「中身」です。「デザインは内容を伝えるための手段」に過ぎませんので、内容自体に価値がなければどんなにデザイン性に優れたポスターを作成しても評価はされません。
一方で、内容が優れていても、誰も注目してくれなければ意味がありません。研究成果や自己アピールなどを効率的・効果的に伝えるための手段としてポスターを上手に活用しましょう!
なお、学会のポスター発表をきっかけに、研究を前に進めるアイデアや、その後のキャリアに繋がる縁を得られるケースも少なくありません。
今回の記事と「【学会ポスター発表】初めてだと人が来ない?」を参考に、聴衆に伝わるポスターを作り、実りある発表にしましょう!
コメント