2020年度より「バイアウト制度」が実施されていますが、具体的にはどのような制度なのでしょうか?
- バイアウト制度とは?
- バイアウト経費の例は?何に使える?
- 科研費からバイアウト経費を支出可能に?
- 研究時間は減少傾向にあった?
このような情報を、記事にまとめました。
バイアウト制度とは、「研究代表者の希望によって、本人が担っている業務のうち、研究以外の業務の代行に係る経費の支出を可能にする」制度のこと。
うまく活用することで、研究に集中する時間を増やすことができます。また、若手研究員(博士・ポスドク等)がPI(研究主宰者、Principal Investigator)の業務を代行することで、人材育成に繋がる側面もあります。
日本の「研究力」を長期的に高めていく意図で施行された「バイアウト制度」について、詳しく解説していきます。
バイアウト制度とは?
前述の通り、バイアウト制度とは「研究代表者が担っている業務のうち、研究以外のものを代行する経費を支出できる」という内容です。
減少傾向にある研究時間の確保を目的として、競争的研究費における直接経費の使途を拡大させました。
2020年の開始当初は文部科学省による競争的研究費が対象でしたが、その後「政府全体の競争的研究費」に対象が拡大されています。
ちなみに、「バイアウト」とは日本語で「買収」という意味です。
バイアウト経費の具体例・何に使える?
バイアウト制度によって代行できる「研究以外の業務業務」とは、どのようなものでしょうか?
- 講義等の教育活動
- 講義に付随する事務業務
- 学生への指導
- 診療活動(保健分野)
- 研究成果普及活動
上記のように、PIが担っている業務のうち、①研究活動、②組織の管理運営事務を除いた業務を、バイアウト経費に計上することができます。
逆に言うと、所属大学内の教授会や、評価・人事に関する業務については、バイアウト対象ではありません。本来、研究機関の責任で整備されるべき内容だからです。
詳細ルールは所属研究機関に任されている面も
バイアウト制度の詳細ルールについては、政府は細かな規定を設けていません。
各研究機関が、バイアウト制度の実施環境とルールを整え、PIと内容や費用の合意をすればよいことになっています。
「この業務を誰に、いくらの金額で代行してもらうか」については、各研究機関の裁量に任されています。代行要員の身分も問われませんので、博士課程の学生、TA、ポスドク、秘書などが各種業務を代行することもできます。
科研費からもバイアウト経費を支出可能?
日本学術振興会の「科研費」においても、2021年度(令和3年度)からバイアウト経費が支出可能です。合わせて、さきがけやCRESTなども令和3年度から導入が開始。
交付申請書の作成時点でバイアウト経費を支出する予定がある場合は、電子申請システム上での入力が必要です。
なお、研究計画の遂行中にバイアウト制度を利用する必要が出たケースでも、変更申請手続きを行うことで支出が可能な場合があります。
研究者の研究時間は減少傾向だった
文部科学省による調査によると、教員の研究活動時間は平成14年度から減少傾向にありました。
職務時間のうち、「研究活動に充てる時間」がどのくらいの割合かという数値は、平成14年度は46.5%でしたが、平成30年度では32.9%まで減少。
調査開始以来、研究時間の割合が最低になったことを受けて、バイアウト制度の導入が進んだのでしょう。
データは、文部科学省の「平成 30 年度大学等におけるフルタイム換算データに関する調査(概要)」を参照しています。
理学・工学・農学はあまり変化していない…
上記調査によると、実は研究時間が大きく減少傾向にあるのは「保健分野」だけのようです。理学、工学、農学分野の研究時間割合は、平成20年度以降、大きな変化は見られません。
バイアウト制度を最も有効活用しなければいけないのは、「保健分野」の研究者なのかもしれません。
バイアウト制度の効果が見えてくるのは2024年調査か
バイアウト制度は、導入されたばかりです。
研究時間の確保にどのくらい繋がるのか、研究の進展にどれだけ寄与できるのか、その効果検証は2024年のFTE調査で判明することと思われます。
※FTE調査は5年周期の一般統計です。
【まとめ】バイアウト制度の活用で研究時間最大化&若手研究者の成長を
今回の記事では、バイアウト制度の概要と、導入の背景について解説してきました。
要点をまとめると、以下の通り。
- バイアウト制度は「研究時間確保」と「若手研究者の活躍」を促進する目的で導入された
- PIは教育活動や事務業務の代行に係る経費を、バイアウト経費として支出できる
- 2020年10月より、政府全体の競争的資金で申請可能に
- 保険分野を中心に、研究者の研究時間は減少傾向にあった
バイアウト制度の実施が、日本の研究力向上に寄与する可能性があります。
研究者は研究活動に専念しつつ、代行要員として博士課程の学生や、ポスドクが活躍することで、研究室として総合的に成長していけるものと期待されています。
今回の記事が、バイアウト制度を理解する一助になっていれば幸いです。
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