博士課程を修了するまでには何年もかかる割に、年収は高くないのではないか。
生涯賃金が低いなら、早く就職した方がいいのではないか…そんな悩みをお持ちの人もいるかもしれません。
- 博士の年収、給料は高い?低い?
- 学士、修士と比べて生涯賃金はどうなる?
- 博士課程修了者への期待と待遇は?
このような情報を、記事にまとめました。
進学を決める要因のひとつに、就職先・年収・初任給・生涯年収などの経済面が気になるのは当然です。
統計データや事例をもとに、学士・修士と比べて博士はどれだけ給料を稼げるのか見ていきます。
「博士は高年収である」という事実を知ることで、自分の人生・キャリアを考える参考にしていただければと思います。
【具体事例】博士の給料が引き上げられている
いきなりですが、博士課程修了者の給料が引き上げられる事例が目立つため、代表的な2つの具体例を紹介します。
博士の国家公務員、初任給を年8万円アップ
2023年4月から、博士課程を修了した国家公務員の初任給が年8万円引き上げられます。
改正後の年収は約480万円となります。学士・修士と比較してみると、以下の通り。
- 学士:382万円
- 修士:434万円
- 博士:480万円
(総合職で本省勤務の場合。残業手当などは除く)
特に統計分析・バイオテクノロジー・量子技術・人工知能などの領域で、高度人材が求められており、博士号取得者への期待が給料に反映された形になっています。
参考:日経新聞「博士の公務員、初任給年8万円アップ 人事院が制度改定」
DMG森精機が博士の初任給を30%引き上げ
2023年4月より、DMG森精機が新卒初任給を大幅引き上げしました。
特に博士課程修了者は36万円から47万円と、約30%も上がり、初任年収は682万5000円になる見込みです。
- 学士:4,000,000円
- 修士:4,650,000円
- 博士:6,825,000円
博士のみ、大幅に給料が高くなっています。高度な専門性を持った博士号取得者を積極的に採用したい方針がうかがえますね。
博士の初任給は高い
先ほどの事例を見ても明らかなように、博士の初任給は、学士、修士よりも高いです。
年功序列制度の残る日本では当然とも言えますが、初任給は「学士<修士<博士」の順に高くなっています。
厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査結果の概況」には、修士と博士の区分がありませんが、大卒と院卒でどのくらい給与差があるのかデータが出ています。
- 大卒:22万6000円
- 院卒:25万5600円
初任給にして、約3万円の違いがあります。単純に年収換算すると、36万円高くなりますね。
博士は修士よりも平均年収が高い…高年収博士になろう!
同じ「大学院卒」でも、修士と博士では修了するまでの状況が違います。
苦労して博士号を取得した分、修士よりも高収入じゃないと…という気持ちもあると思いますが、そんな希望を裏付けるデータがあります。
結論としては、修士よりも博士の方が平均年収が高いです。
博士は、修士と比べて「年収・やりがい度」が高い!
内閣府・e-CSTIの「人材育成に係る産業界ニーズの分析」では、最終学歴による年収などの分布が示されています。
最終学歴ごとに色分けされており、青が高専・学部卒、黄色が修士、赤が博士です。
上記の分布図では、横軸に「やりがい度」×縦軸に「年収レベル」をとっています。
この分布図において、赤色の博士が右上の高いゾーンに目立ちます。平均年収1000万円のゾーンに分布するのは博士のみで、高年収でありつつ、やりがい度も高いことがうかがえます。
もちろん例外もありますが、大きく全体の傾向を読み取ろうとすると、学位ごとに以下のような平均年収の特徴が見られます。
- 学士:300万円台も多く、600万円前後にもボリューム有
- 修士:500万円以下も多く、700万円代がアッパー
- 博士:500万円以上が多く、700~1000万円にボリューム有
以上のように、博士は修士よりも平均年収が高いです。
博士は自分の研究分野を仕事でも活かせている
上記の分布図では、横軸に「出身分野と業務の関連度」×縦軸に「やりがい度」をとっています。
関連度とやりがい度も、博士が右上の高いゾーンに存在することがわかります。
博士は自分が研究してきた領域を業務に活かすことができており、仕事への満足度も高いです。
博士は修士より168万円も平均年収が高い
内閣府・e-CSTIとは別のデータもありました。
リクルートワークス研究所の「博士のその後は闇か?」という記事によると、学歴ごとの平均年収は以下の通り。
- 大学:419.1万円
- 大学院修士課程:570.0万円
- 大学院博士課程:738.1万円
学士、修士と比較すると、圧倒的に博士の年収が高くなっています。
また、この調査では「博士に進んだ医師が年収を押し上げてるのでは…」という推察に応える形で、専攻別の調査もしています。
すると、医学・薬学を除いた、自然科学系でも人文社会系でも、「学士<修士<博士」の順に年収は上がっていました。
博士の給料が低いイメージとは…?
博士課程の修了には苦労するのに、博士の給料は低くて「コスパが悪い」という意見があります。
これは主に「ポスドク問題」といった、非正規ポストに就く人が目立つからではないでしょうか。非正規雇用のため年収が低く、年齢を重ねても昇給はそれほど望めません。
問題点ばかりがクローズアップされる傾向がありますが、実際には高収入で、やりがいを持って仕事に取り組む博士も多いのです。
博士の年収が高くなる理由とは?
前掲のデータの通り、博士は学士・修士と比較して年収が高くなる傾向にあります。
その理由は、「博士人材は期待以上の貢献度があり、トップクラス人材として評価されるから」と言えます。
企業「博士人材は期待以上」
文部科学省「民間企業における博士の採用と活用」では、企業が採用した学生への期待値と評価が調査されています。
学士・修士と比較すると、博士に対しては多くの面で「期待を上回る」と評価されています。
高度な専門知識を有しているだけでなく、課題解決能力やプレゼンテーション能力、論理的思考力や諦めない精神力…など、博士課程で身につけた資質や能力が高い評価を得ているのでしょう。
研究開発職のトップクラス人材には博士号取得者が多い
上記の「民間企業における博士の採用と活用」では、資本金1億円以上の民間企業において、社内的に高い評価を得ている研究開発者(=トップクラス人材)が博士号を取得しているかどうかを調査しています。
その結果、特に資本100億円以上の企業のトップクラス人材のうち、若手の20.2%、中堅の35.5%が博士号取得者でした。これは、研究開発部門に関わる職員全体の中で博士が占める割合(4.9%)と比較すると、極めて高い数値です。
つまり、大手民間企業に在籍する博士号取得者は、トップクラス人材として高い評価を受けることが多いと読み取れます。
博士は昇格が早いのかもしれない…?
以上の調査結果を踏まえると、博士は総合的に企業からの評価が高いことがわかります。
評価が高いということは、出世(昇格)も早い人が多いのではないかと推察できます。(※一概に、博士は昇格が早い、というエビデンスはありませんが。)
一般企業においては、役職が昇格することで、大きく昇給するケースがあります。早いうちから管理職に昇格し、博士の年収が目立って高くなっているのかもしれません。
博士は生涯賃金も高くなる
生涯賃金(生涯収入)についても、博士は高くなると言えそうです。
これまでの収入データを見ても、修士より博士の方が年収が高い傾向が見られました。3年間で博士課程を修了したとすると、修士は3年間、学士は5年間、博士より勤続年数が長くなっていることになります。
しかし、博士は初任給が高く、年収も高くなる傾向があるため、退職までの長い目で見ると生涯賃金が高くなる人も多い、と言えるでしょう。
日本では学位ごとの明確なデータは見当たらないため、以下、参考までにアメリカにおける学位ごとの年収比較を紹介します。
【参考】アメリカにおける学位ごとの生涯賃金&失業率
アメリカにおいては、博士・修士・学士の違いによって、生涯賃金は以下のようになります。
- 博士:$3,284,660
- 修士:$2,954,460
- 学士:$2,643,080
博士の生涯年収は、1ドル130円換算で4億2700万円というものすごい金額になっています。
修士の生涯賃金と比較すると、その差は日本円にして「約4300万円」。博士と学士を比較すると「約8340万円」もの差が生まれています。
(※博士は27歳、修士は24歳、学士は22歳から就職し、60歳定年と想定)
アメリカと日本では様々な面で違いはあるものの、世界一の経済大国では、博士号取得者は生涯賃金もずば抜けて高いことがわかりますね。
ちなみに、同じ調査では学位ごとの失業率も掲載されています。
- 博士:1.5%
- 修士:2.6%
- 学士:3.5%
博士号取得者は失業率が低く、アメリカ社会で活躍していることがうかがえます。
参考:U.S BUREAU OF LABOR STATISTICS「Earnings and unemployment rates by educational attainment 2021」
【まとめ】博士は高年収で生涯賃金も高い!
今回の記事では、博士の給料事情について解説してきました。
要点をまとめると、以下の通り。
- 博士の給与引き上げ事例が増えている
- 大卒より院卒の初任給はの方が3万円高い
- 修士より博士の方が年収もやりがい度も高い傾向
- 企業の博士人材への評価は「期待以上」
- 博士は評価が高く、昇格しやすいと予想される
- アメリカでは博士の生涯賃金は5億円前後になる
- 学士、修士より勤続年数は短くても、生涯賃金は高くなる
「ポスドク問題」など、博士をめぐる問題点を指摘する声も多いですが、実際は高年収な博士も多いというデータがありました。
近年、日本でも博士の専門性や、課題解決能力を求める声が強くなってきています。
冒頭で紹介したDMG森精機の大幅な待遇改善の他にも、博士を採用したい企業が積極的な動きを見せているのです。
博士課程に進学しても将来が不安…と悩む人もいるかもしれませんが、今回の給与データを参考に、前向きに人生設計をしてみてください。
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